アバウト・シュミット


(原題:About Schmidt)
2002年/アメリカ
上映時間:125分
監督:アレクサンダー・ぺイン
キャスト:ジャック・ニコルソン/キャシー・ベイツ/ホープ・デイヴィス/ダーモット・マルロニー/ジューン・スキッブ/他

 




 

アカデミー賞やゴールデン・グローブ賞の超常連であり、あらゆる俳優に影響を与えたとも評される俳優ジャック・ニコルソン主演のヒューマン・ドラマ。

ジャック・ニコルソンが誇る圧巻の演技力に加え、名女優キャシー・ベイツも出演しており、この2人のキャスティングだけで十分に観る価値があると断言しても良いでしょう。

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」のアレクサンダー・ペインの手腕が惜しみなく発揮され「これぞ映画!」と言わんばかりに素晴らしい作品となっております。

黒澤明監督に影響を受けたと語るペイン監督ですが、人生を満たすもの、人生を豊かにするもの、意味合いが無限にある「人生の意味」を紐解くきっかけになりそうな物語です。

さっくりあらすじ

ネブラスカ州・オマハ在住のウォーレン・シュミットは大手の保険会社に勤め、長らく勤務した会社の定年を迎えることになる。

結婚間近の一人娘・ジーニーはデンバーで暮らしており、これからは妻・ヘレンと悠々自適の生活を送ろうと大型のキャンピングカーまで購入していた。

ところが退職したシュミットはやることが見つからず、会社に出向き後任の部下に助言をするも軽くあしらわれ、新しい生活にストレスを感じるようになる。

そんな中、TVで見たアフリカの貧困を救う企画に寄付をし、アフリカの子供・ンドゥグの養父となり、想いのままの愚痴を手紙に送ることがシュミットの楽しみになっていく。

しかしヘレンが急死してしまい、葬儀のためにジーニーが婚約者・ランドールを連れて帰郷するも、そもそもランドールが気に入らず結婚に反対するシュミットと口論になり、そのまま帰ってしまった。

独りぼっちになったシュミットの生活は荒れ、さらに親友とヘレンが浮気していたことが発覚し、親友も失うことに。

いよいよ自分には娘しかいないと悟ったシュミットはキャンピングカーに乗り、デンバーを目指すのだが、、、

 

 

 

ウォーレン・シュミット
平凡な男性・66歳

 

妻を失い、娘と口論になり、親友を失う

 

いたたまれないシュミット
オマハからデンバーへと旅に出る

 

 

 

 

「おじさんの人生」の価値

最近はあまり聞かなくなりましたが、やれ定年退職したらボケたとか、やれ熟年離婚だとか、人生の大半を捧ぐ仕事を終えると人生の目的を失うきっかけになりやすいものなのでしょう。

仕事一筋、家族を養うために頑張る姿は間違いなく立派なものですが、家族と向き合う時間に欠け、家事もできず、趣味も無い人間は「引退後にこうなるんだぞ」という見本のような展開ですな。

 

シュミットは66歳、決して悪い人間ではなく本当に平凡なおじさんで、平均的に考えればあと15年くらいは生きるのでしょう。

人生の終盤であれこれと失くしてしまうシュミットの姿は決して他人事ではなく、35歳の筆者が観ても切実に感じてしまうほどの説得力があります。

「家族を養う」「出世する」「何かを成し遂げる」と、仕事をする上での意義はたくさんあると思いますが、気づけばルーティーンな日々を送り、自分が成し得てきた意味を見失ってしまうことは誰にでもあることでしょう。

 

それ故に劇中で描かれる、誰からも必要とされなくなった彼の悲しさは決して大袈裟なものではなく、誰にでも訪れる可能性を秘めたものだと解釈できます。

地味ではありますが、この”普通さ”や”平凡さ”が前提として成立しているからこそ、尚更シュミットという初老の男性の悲しさが存分に伝わってくるんですね。

 

 

そしてそのシュミットを演じるジャック・ニコルソンが圧倒的な演技力で物語に華を添えます。

どう見ても平凡な顔立ちではなく、マフィアの首領にしかみえないビジュアルですが、そんな彼のインパクトをひた隠し、至って普通の”おじさん”に徹している抑えた演技はさすがの一言ですな。

ラストシーンは文句無しで胸を打つ感動を呼び、彼でしか表現できなかったであろう小さな幸せを見るに、ジャック・ニコルソンあってこその作品だと言えます。

 

加えて演技派女優のキャシー・ベイツの存在感。

強烈な個性を誇るおばちゃんですが、抑揚が少なめな本作に於いての盛り上げ役として、体当たりヌードも含め素晴らしい演技を発揮しています。

 

また、脚本も担当しているペイン監督の味というか、ハッピーエンドかどうかも疑わしいエンディングも個人的には好感を持ちます。

妻は亡くなるし、親友は妻と浮気してたし、娘とは和解できんし、義理の息子候補はボンクラだし、義理の家族候補は強烈だし、ついでに旅に出ても劇的な変化は無いし、、、

こんな数え役満みたいな現実を乗り越えるだけのバイタリティも無く、ヒューマン・ドラマ的なお約束な感動も無く、その代わりに些細な、本当に些細な光明を見出して物語は終わります。

この最後の最後の数十秒のシーンに全てを懸けたペイン監督の判断もさすがの一言ですな。

 

総じて没個性的に徹したジャック・ニコルソン、個性的なキャシー・ベイツ、その2人を使いこなしたアレクサンダー・ペイン監督と、極めて高いレベルでの化学反応は一見の価値ありです。

 




まとめ

老後の生活に突入した男性の悲哀を描く作品ではありますが、ペイン監督独特の低温コメディ感は健在です。

よく考えればホラーの域に達するほどにリアリティ溢れる恐ろしさを描いた作品とも言えますが、そう感じさせないのは全編に漂うゆるーいユーモアがあるからでしょう。

 

望まずとも理不尽なトラブルに翻弄され、あたふたとみっともなく取り乱すのが人生というものですが、惨めでも真面目に向き合うところに一筋の光が差します。

正直30代では深く理解が及ぶとは思いませんが、それでも幅広い世代に観て欲しいですし、観るに値する深い深いメッセージがあります。

 

人生の終盤に差し掛かり、人生の意味を考える本作。

ある程度の年数を経て、2度、3度と観てみると、その度に新しい感想が飛び出てくるはずです。

オススメです。

ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。



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