ブロークンシティ


(原題:Broken City)
2012年/アメリカ
上映時間:109分
監督:アレン・ヒューズ
キャスト:マーク・ウォールバーグ/ラッセル・クロウ/キャサリン・ゼタ=ジョーンズ/ジェフリー・ライト/バリー・ペッパー/他

 




 

ニューヨーク市長選を背景に、街の再開発に絡む利権や陰謀を描いたクライム・サスペンス。

粗野な風貌に知性を感じさせるマーク・ウォールバーグと、知性の中に腹黒さを感じさせるラッセル・クロウ。

共に折り紙付きの演技派俳優を起用し、善悪では割り切れない複雑な問題に切り込んでいきます。

 

現実的な社会派サスペンスというには一歩及ばない印象ではありますが、選挙で勝ち抜く術や、理想に伴う犠牲など、それなりに考えさせられる内容ではあります。

 

 

 

さっくりあらすじ

警察官ビリー・タガードは無罪の人間を一方的に射殺したとして、ニューヨークの市民達は有罪判決を訴え、デモに発展していた。

結果としてビリーは証拠不十分で不起訴となるが、市長のホステラーに呼び出され、新たな証拠が見つかったことで不利になることが予想されると、辞職を迫られることに。

ビリーは警察を辞めて私立探偵を始めるも、顧客の支払いが遅れ、助手のケイティにすら給料が払えないでいた。

そんな中、ホステラーから妻の浮気調査の依頼が舞い込んでくるのだが、、、

 

 

 

 

 

警官を辞職し、探偵業を始めたビリー
市長からの依頼を受ける

 

ニューヨーク市長・ホステラー
街の再開発を手掛ける

 

ホステラーの妻・キャサリン
ビリーに手を引くよう警告する

 

 

 

 

 

毒の質

「毒を以て毒を制す」とか「清濁併せ飲む」とか、綺麗ごとだけでは理想の行政に辿り着かないのが政治の世界。

「正しい行いの為には犠牲は止む無し」と考えるタガートと、より大きなスケールで似た考えを持つホステラーの”汚れ仕事”にフォーカスしたような作品です。

 

 

ニューヨークの再開発を推し進める市長・ホステラーを演じるラッセル・クロウは流石の演技力を発揮。

為政者としてのリーダーシップや、自身の政策の正しさを訴える剛腕っぷりなど、これはもう観ていて清々しいくらいのアメリカの政治家ですな。

怖いけど頼もしい、そして頼もしいけど怖い。

強面な顔から放たれる優しい笑顔や、時折こぼれ落ちる腹黒さの一端など、綱渡りな選挙を勝ち抜いてきた人間の狡猾さが感じ取れます。

 

自分のプラスになりそうな者がいれば利用し、マイナスになりそうな者がいれば徹底的に敵と見なす。

異常なほどに極端な思考はちょっとしたサイコパスにも見えるくらいで、ビリーに調査から手を引くように訴えた妻に対し、鏡越しに警告するシーンなんかは本当に怖いっす。

 

そういった政治家としての手腕が最も発揮される、対立候補とのTV討論が最大の見どころと言っても良いくらい。

現実世界では、特に日本の各党代表の討論会などは、あまりに下らなく退屈で観るに値しませんが、本作の討論会は実に緊張感があって素晴らしいシーンです。

自身のスキャンダルや弱点を突かれても一切のダメージを感じさせず、理路整然とした言葉で自分の実績を声高に謳う姿は理想的な”強い政治家”そのものですね。

 

 

対するマーク・ウォールバーグも相変わらずの安定感ではありますが、さすがにラッセル・クロウに一歩及ばず。

法に反しても自身の正義を貫いたところを買われ、市長からの依頼を受けたことに繋がるわけですが、結果として何とも中途半端な印象に。

 

自身の信念は貫くけれど、人に利用されるのだけは我慢ならないという、小さな男に見えてしまうのが何とも残念ですな。

頭にきて報酬の小切手を破ってしまうところなんか特にそう。

「こんな金、受け取れるかぁ!」と言わんばかりの剣幕ですが、そこは助手に給料払ってやれよと。

ついでに言えば女優の卵だった彼女が濡れ場を演じただけで、7年我慢し続けた禁酒の誓いを破ったりもします。

総じて直情的といいますか、カッとなりやすく、筆者的に見ればいつかDVとかやらかしそうな危険な匂いがしますね。

 

最後の最後に漢気を見せるんだけれども、それも元はと言えば自分が蒔いた種なわけだし、大局的に見れば市長を蹴落とすことが正解かどうかも分からないし。

そんなもんで、いまいち主人公の心情に寄り添うことができず、また長いものに巻かれる筆者としては微妙に楽しめなかった最大の要因にもなってしまいました。

 

 

さて、ややマイナス面が目立ってしまいましたが、政治的なサスペンスとしての完成度はなかなかのものです。

割と現実的で骨太な陰謀を軸に、一般人では知り得ない政策や都市開発の詳細を紐解き、権力者たちによる搾取が物語の背景となります。

これは実際どこの国でも似たようなもので、半数以上の人間が賛同すれば、反対意見を押しつぶせるのが民主主義の醍醐味なんでしょう。

 

権力者や有力者たちに都合の良い政策が次々打ち出され、でも社会的な弱者はみんなで助けましょうって言い分が何十年も続いている日本国民なら分かるでしょ。

その思想が良いか悪いかは置いといて、嘘と方便を使いこなす政治家が上に立ち、嘘と方便を見抜けない庶民が政治家を持ち上げる。

そんな現実がある限りは何も変わらない、地続きな毎日があるんだと思います。

 




 

まとめ

映画としてはそれなりな完成度だとは思いますが、いかんせん社会的なサスペンスは話が難しく、馴れない人は眠たくなること請け合いです。

そこに起承転結をしっかりと作り、合間にちょっとしたアクションも挟み、飽きさせないための工夫は評価できるところかな。

 

ちょいと人は選びそうな映画ですが、内容はそれなりに面白いものです。

よければ一度ご鑑賞くださいませ。

 

 

 



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