ヒトラー~最後の12日間~


(原題:Der Untergang)
2004年/ドイツ・オーストリア・イタリア
上映時間:156分
監督:オリヴァー・ヒルシュビーゲル
キャスト:ブルーノ・ガンツ/アレクサンドラ・マリア・ララ/ユリアーネ・ケーラー/トーマス・クレッチマン/ウルリッヒ・マテス/他

 




 

「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」で、日本人の特殊メイクアーティストがアカデミー賞にノミネートされたということで、にわかに盛り上がっているようですな。

ゲイリー・オールドマンが演じる時の英国首相・チャーチルの姿はメイクを疑うことすら難しいような完成度であり、うっすらと目元に面影を残すばかりで技術の高さに感嘆するばかりです。

 

数々の逸話を持つ歴史的な独裁者アドルフ・ヒトラーですが、本作ではタイトル通りにドイツ第三帝国の地下壕に潜ったヒトラーを中心に、周囲の側近達とベルリンの人々を描いた群像劇です。

今までにありそうで無かった「人間的なヒトラーの姿」を描いた作品として、当時はかなりの賛否両論を巻き起こしたそうな。

 

実際にヒトラーの秘書を務めた女性の証言と、ドイツの歴史ジャーナリストの歴史研究の数々から導き出された独裁者の最後とはいかなるものであったのでしょうか?

 

 

 

さっくりあらすじ

1945年4月、第二次世界大戦も終盤を迎え、ナチス・ドイツの総統アドルフ・ヒトラーは側近や身内と共にベルリンの地下壕に非難していた。

地下壕にてヒトラーは56歳の誕生日を迎え、軍の高官達が祝いの訪問にやってくるが、秘書のトラウデル・ユンゲは次から次へと入って来る情報の数々に敗戦を確信していた。

誰もが退避を進言するがヒトラーは頑として聞く耳を持たず、ベルリンでの総力戦を見据え部隊に攻撃命令を発するも、軍には攻撃に転じるだけの余力はもはや残っていない。

激昂したヒトラーはベルリンに留まると宣言し、他の幕僚たちも同様に地下壕に残ることを決意するのだが、、、

 

 

 

 

ナチスの総統アドルフ・ヒトラー
心身症を患い躁鬱状態が続く

 

ヒトラーの秘書官の一人・ユンゲ
本作の影の主人公

 

市街地のロケはロシアで撮影されたとか
つまり、かつての敵国同士の協力で完成した映画

 

 

 

 

 

”内側”からの視点

ヒトラーやナチス・ドイツをテーマにした作品こそ数あれど、俯瞰した視点ではなく主観的な視点で作られた極めて珍しい作品だと言えます。

 

良くも悪くも世界史に残る人物であったアドルフ・ヒトラー。

その人間性を掘り下げた作品として、また逸話や憶測ではなく実際に身近にいた人たちの生の声で完成された人物像には否応の無い説得力がありますね。

あくまで映画なので全てがノンフィクションというわけでもないでしょうが、それを踏まえた上でも血の通ったヒトラーの人格には惹きつけられる魅力があります。

 

当然彼を肯定するわけではないですが「ホロコーストをはじめ様々な虐殺を企てた独裁者」以外の面を知る貴重な作品であり、賛否を呼ぶのも頷ける話ではあるにしろ、それでも十二分に観る価値のある映画だと断言します。

あまり声を大にして言えないであろうドイツ人が語るナチスの物語として、恐らくはドイツ本国も含め世界中からの批判が飛んでくるであろう映画に着手した勇気は本当に称賛に値するものだと思います。

 

 

物語としては”群像劇”と称した通り、結構な数の登場人物がいます。

またドイツ独特の名前が乱発される上に親切な説明も少なめなので、ある程度の世界史の予習はした方が良いかもしれません。

というか、ぶっちゃけ誰が誰なのかハッキリ分からないようであれば、本作を深く理解することはできないでしょう。

 

登場人物の一人ひとりの迫真の演技は息を飲む程の緊張感があり、また本当の意味での極限状況が生み出す人間の狂気は何とも言えない鬱な破壊力があります。

ただでさえ狭い地下壕の中で、冷静を装いながらも追い詰められていく人間達。

教科書で習っただけに結末は見えている物語ではありますが、それを埋めるかのような狂気を孕んだ感情のぶつかり合いには常人では耐えられない圧迫感があるわけです。

 

ヒトラーをはじめ、次々と命を落とす人たち。

対照的に絶望的な状況から生き残るために知恵と勇気を振り絞る人たち。

そこには既に善も悪もなく、取り返しのつかない事態を引き起こし、大量の人間の屍の上でようやく取り戻せた理性なのかもしれません。

 

 




 

まとめ

オーストリアで生まれたアドルフ・ヒトラーは嘗ては画家を目指し、街を描き、国家を描きました。

そして世界恐慌により大混乱に陥ったドイツ国民はヒトラーの掲げる「強いドイツの復活」に心酔し、89%にも及ぶ支持率と共に自らの運命を委ねました。

 

映画の最後にはヒトラーの秘書を務めたトラウデル・ユンゲの映像があり、彼女は「(惨事は)目を開けていれば気づけたはずだった」と語ります。

個人的には過去の事、過ぎた事をネチネチ言うのは嫌いなのでアレですが、彼女が語った言葉には「自分で考える」大切さが溢れています。

政治や経済や外交のこと、非常に難解で眠くなるようなものばかりですが、過去の失敗を活かして未来を良くできるのが人間の良いところだと信じたいですね。

 

楽しい映画ではないのでオススメはしませんが、一度は観てほしい作品です。

ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。

 

 

 



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