フィッシュ・タンク


(原題:Fish Tank)
2009年/イギリス
上映時間:124分
監督:アンドレア・アーノルド
キャスト:ケイティ・ジャーヴィス/カーストン・ウェアリング/マイケル・ファスベンダー/レベッカ・グリフィス/ハリー・トレッダウェイ/他

 




 

荒んだ生活を送る少女の性の目覚めや心の成長を描いた青春系ヒューマン・ドラマ。

プロメテウス」や「X-Men:ファーストジェネレーション」のマイケル・ファスベンダーを除き、これといって有名な俳優は出演しておらず、むしろ主演のケイティ・ジャーヴィスに至っては演技経験が無く、本作がデビュー作という変わり種。

しかしイギリスならではの労働者階級を背景に、女性監督アンドレア・アーノルドの視点で描かれた物語は評判を呼び、カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞するに至ります。

 

 

 

さっくりあらすじ

15歳の少女・ミアは母と妹の3人で低所得者向けのアパートに暮らしている。

シングルマザーのジョアンヌは働きもせず酒に浸り、10歳の妹はタバコを吸い口汚く罵り、またミア自身も自分の殻に閉じこもる毎日を送っていた。

ミアはダンスにだけは興味を持っているが、不器用で素直になれない性格が災いし学校では問題児扱いされ、同級生とのトラブルで処分を受けて以降は学校にも行かなくなってしまう。

唯一の友達だったキーリーも愛想を尽かして疎遠になり、またジョアンヌはミアを邪魔者扱いし、特別学校への転向を企んでいる。

そんな中、ジョアンヌの新しい恋人としてコナーと出会うのだが、、、

 

 

 

 

孤独な少女・ミア
いつも一人でダンスの練習

 

偶然見つけた馬に自分の境遇を重ね
逃がそうとするが、、

 

母の恋人・コナーと出会う
大人の男性の優しさに恋心を抱く

 

 

 

濁った水槽

フィッシュタンク=水槽ということで、劣悪な環境に身を置く魚の如し、どう身の振りを考えれば良いのかすら掴めない少女の物語です。

日本的に言えば”籠の鳥”ってところか。

 

飲んだくれの母親と、反抗期と呼ぶにはアレですがとにかく可愛げの無い妹に囲まれ、学校にも行けず友達もいない主人公・ミアはとにかく居場所が無いわけです。

景気の悪さが伝わるような退廃的な環境で一人、日常は満たされることなく、かといって変化や希望の兆しさえ見えない濁った日々。

こういった映画は得意のダンスの才能が開花し、成り上がるようなサクセス・ストーリーが鉄板ネタですが、本作に於いては徹底したリアリズムが作品の基盤となっております。

 

閉鎖的で孤独な少女の悲哀は伝わりますが、それと同時にミアの視野の狭さもまた描かれます。

自分のアイデンティティの確立や、潜在的に自分に対して親切な人物への甘えなど、年齢的にも大人になりきれない等身大の少女の姿はある意味で自己中心的なもの。

 

鎖に繋がれた馬を逃がしてあげようとするシーンはまさにその典型であり、鎖を解かれ「自由」を手にすれば元気になるという思い込みは自身の境遇を投影しているようにも見えます。

自分の中の価値観と、客観的な常識は少々剥離しており、そのギャップが埋められないが故に孤独になり、またそのギャップを埋めてくれる人がいないという複雑な境遇ですな。

 

 

そんな中で現れた母の恋人・コナーは事実はどうあれ、ミアからすれば自身を理解し、ダンスを褒めてくれる上に色々と後押しをしてくれる魅力的な大人の男性です。

コナー演じるマイケル・ファスベンダーが非常に魅力的なこともあり、性的なものも含めミアが惹かれていくのも頷ける話ではありますが、常識的な人からすれば良くない道を選ぼうとする子供そのものですな。

悪い奴とまでは言わないけれど良い奴でもない、傍から見れば怪しい男性だけれども悪そうな人には見えない、そういった絶妙なバランス感覚は極めて素晴らしいと言えるでしょう。

 

 

終わってみればミアはけっこう散々な経験をしてるようにも思いますが、そこには鬱っぽい演出は無く、あくまで少女の青春映画として完成しているあたりは素晴らしい手腕ですな。

演技経験の無い少女を主役に抜擢し、素人臭さを逆手に取った演技はリアリティを生み、その未熟さを補う丁寧な演出は高い完成度を生みます。

 

素人なりの繊細な演技を頑張ったケイティ・ジャーヴィスも、彼女に可能性を見出し最大限に活用したアンドレア・アーノルド監督も、本当に良い仕事をしてます。

 




 

まとめ

イギリス映画によくある不況ものの作品ですが、難しい年頃の青春映画としては非常に良い出来かなと思います。

15歳という人格形成において不安定な年頃の時間は本当に複雑で、自分で自分の気持ちを整理できないが故に息苦しさを感じたり、はたまた誰かに寄りかかりたくなることもあるでしょう。

 

しかし現実は冷たいもので、自己を確立できない子供には容赦ない事態がどんどん突き付けられるわけで。

1歩進んで1歩下がる、2歩進んで2歩下がる、その場で足踏みを繰り返し、傷つき、心身ともに苦しんだ上で見つかる自分の道。

 

人より早く大人を目指さなくてはいけない環境でもがく少女の姿は感動と不安を誘い、何とも歯がゆい気持ちにさせられます。

また、どう見ても幸せな未来が待っているとは言えない終わり方もなかなか渋めで深い味わいがありますな。

 

少々性的な表現や悪い言葉もあるのでアレですが、できれば若い子にも観て欲しい秀作です。

ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。



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