(原題:A Clockwork Orange)
1971年/イギリス・アメリカ
上映時間:137分
監督:スタンリー・キューブリック
キャスト:マルコム・マクダウェル/ウォーレン・クラーク/ジェームズ・マーカス/ポール・ファレル/リチャード・コンノート/他
イギリスの作家アンソニー・バージェスの同名小説を映画化した、社会風刺的なバイオレンス・ドラマ。
今さら説明するまでもないほどの傑作であり、問題作であり、強く記憶に残るセンセーショナルな作品です。
キャッチーでオシャレなポスターも有名ですし、見かけたことのある人も多いんじゃないですかね?
監督は「2001年宇宙の旅」や「シャイニング」など、極めて独創性に溢れ、天才の名を欲しいままにしたスタンリー・キューブリック氏。
数々のクラシック音楽と、強烈な暴力表現を組み合わせた本作は、単なるバイオレンス映画に留まらない深い余韻を残します。
さっくりあらすじ
近未来のロンドン、15歳の少年・アレックスを中心とする4人の少年達はドラッグ入りのミルクを飲みながら、今日はどんな無差別の暴力に興じるかの計画を立てていた。
働けずホームレスのなった老人を殴り、他のグループと乱闘した彼らは、盗んだ車で次の獲物を探す。
やって来た郊外で事故を装い助けを求め、親切心から玄関を開けた家に乱入した彼らは主人の見ている前で妻を輪姦した。
奔放に犯罪を繰り返す少年達だったがリーダーの座を巡って諍いとなり、仲間に裏切られたアレックスは逮捕されてしまうのだが、、、
少年犯罪グループ”ドルーグ”
リーダーのアレックス
郊外に住む作家宅に押し入り
残虐な暴力を振るう
仲間に裏切られ刑務所へ
出所するために実験に志願するが、、
不愉快な心地よさ
社会に不満を抱き、異常性溢れる少年達による暴力。
それに対して何もアクションを起こせず、絶望の末に「殺せ」と叫ぶホームレス老人。
子供の行動を全く把握せず、責任を放棄した親。
管理社会が垣間見える昼間と、自由に暴力性を発揮する夜間のコントラスト。
科学や外部的な処置により、人間的な自由や選択を奪われた主人公。
それらの背景を彩る強めな色彩と、数々のスラングを用いる演出。
どれを取っても非常に印象的で興味深く、演じるマルコム・マクダウェルの好演もあり、強烈な社会風刺とエンタメ性が混在した稀有な作品となっております。
近未来の社会体制を皮肉る作品は数多くあるものですが、これほどに記憶に刻み込まれる映画はそう多くはないでしょう。
引きこもりによる暴力や犯罪の低年齢化などを考えれば、本作で描かれる”未来”が現在で無視できない問題となってますしね。
どういった対策が必要で、またどれだけ問題に向き合う姿勢が取れるのかが問われているようにも思えます。
物語としては、夜な夜な凶悪犯罪を繰り返すキ〇ガイ少年が仲間に裏切られ、刑務所から出たいがために危険な実験に志願するという流れ。
とにかく映像と音楽が印象深いのが特徴であり、一度観ればかなり深く記憶に焼き付けられるインパクトに溢れています。
いちいち出てくる卑猥な絵画やオブジェ、近未来的でお洒落なインテリアの数々、そして強烈な色彩。
どれも非常にセンス良く、観ていて不快になるシーンのオンパレードではあるけれども、それでも目の離せないハイセンスな映像は本当に素晴らしいものです。
イカれた少年達の心情を具現化するかのように明るい暴力シーンや、コミカルに描かれえる性交渉のシーン、そして巨大な男性器で女性を殴る斜め上なイカれっぷり。
総じて見るに堪えないはずの異常な演出の数々が、何故か面白おかしく感じられるあたりに演出の妙を感じます。
強姦に暴力と、過激で野蛮な表現はとても褒められたものではありませんが、それを補って余りある”ユーモア”があるのもまた事実。
観客を魅了する映像的・演出的な魅力は決して否定できるものではありません。
また、センセーショナルな演出にばかり目がいきがちですが、いち映画としても丁寧な作りです。
アレックスという稀代のモンスターが何故に生まれ、どう結末を迎えたのかまで、起承転結がキッチリと描かれます。
こういった基礎がしっかりしているからこそ、斜め上な演出でもボケない完成度に繋がるわけですな。
ちなみに、公開当時は現実に起きた少年犯罪と本作の関係性が取りざたされ、実に26年もの間上映中止になったんだとか。
こういった事件が起きるたびに問題視されるのが世の常ですが、こういった表現や演出に影響されて犯罪に走る人は脳の接続が元々どうかしてますからね。
何でもかんでも映画やゲームのせいにするのは良くないですな、ウンザリですわ。
とはいえ、劇中で描かれるアレックスの環境を鑑みれば、こういった異常行動に出た原因もある程度ハッキリと紐づけられているんですけどね。
まとめ
「面白い」という感覚で括れる映画ではなく、何かもっと奥深い表現を感じ取る作品だと思います。
表面的に見れば暴力を助長する作品なのは否定できませんが、もっと深層的なところに意味があるのでしょう。
暴力や抑圧、自制と解放、大人と子供、管理と放棄、そして罪と罰。
潜在的な人間性と、臭いものに蓋をする社会性と、非常に繊細で難しいテーマが垣間見えます。
つまりはかなり大人向けな映画だと思いますし、むしろ20代の内は観る必要の無い作品だとも思うわけですよ。
ついでに言えば、どう見ても万人受けする映画ではないですし、かなり玄人向けな作品なのは間違いないでしょう。
良ければ一度ご鑑賞くださいませ。