幸せなひとりぼっち


(原題:En man som heter ove)
(英題:A MAN CALLED OVE)
2015年/スウェーデン
上映時間:116分
監督:ハンネス・ホルム
キャスト:ロルフ・ラスゴード/イーダ・エングボル/バハー・パール/フィリップ・バーグ/カタリナ・ラッソン/他

 




 

以前「期待の新作」でご紹介した、スウェーデン発のユーモア溢れるヒューマン・ドラマ。

 

実際にスウェーデンでは「スターウォーズ/フォースの覚醒」を上回るほどに大ヒットを記録したようですが、予想通りに日本での公開当時は「海賊と呼ばれた男」や「ローグ・ワン」の波に飲まれ、とうとうフォーカスされることはありませんでしたね。

当時は年末ということで仕事に忙殺され、クリスマスや年末のムードに浮かれている人たちを横目に呪いの言葉を呟いてるような始末で、とても映画館へと足を運ぶ時間が無かったわけで。

結局最後まで大きな劇場(レイトショーが無いってことね)で公開されることも無かったようですし、どうしても作品の内容よりも商業的なマーケティングが上回る配給会社の仕事は気に入りませんな。

 

前々から主張したおりますが、スウェーデンの映画って面白いの多いんだよ。

もう少し日本での公開が大規模になっても良いようなポテンシャルを秘めていると思いますし、ハリウッドと邦画だけが映画ではないのだと、業界の方にも気づいてほしいなぁ。。

 

さっくりあらすじ

スウェーデンの郊外に住むオーヴェは最愛の妻・ソーニャに先立たれ、長年働いてきた鉄道局をリストラされ、人生に絶望しソーニャの後を追うべく自殺することを決意する。

いざ首を吊ろうとすると向かいに引っ越してきたペルシャ人一家が車を駐車しようと狭い路地で四苦八苦しており、見かねたオーヴェは自殺を先送りして助けてあげることにする。

頑固で偏屈、自主的に町内を見回り厳格なルールを課すオーヴェは近所の人から変人扱いされており、毎日のようにソーニャの墓へと出かけては愚痴をこぼす日々を送っていた。

そして今度こそ首を吊ろうと試みるも、しつこく玄関の呼び鈴が鳴らされ再び自殺を中断、何事かと外へ出るとペルシャの隣人・パルヴァネ一家が昨日のお礼にと料理を持ってきたのだった。

迷惑だと感じながらも受け取り、こんどこそ首を吊るオーヴェだが、、、

 

 

 

 

人生に絶望し、亡き妻に愚痴るオーヴェ

 

そこでパルヴァネ一家と出会い、、

 

この猫ちゃんがたまんねぇぇぇ、、

 

 

 

オーヴェおじさんの物語

偏屈でクセのある人が誰かと出会い、心を開いていくような物語は数あれど、これほどに感動したのはかなり久しぶりな気がします。

 

基本的には偏屈なオヤジとギリシャの隣人とのやり取りをベースに、ちょくちょくと回想シーンが挟まるのがベースとなりますが、何故にオーヴェがルールに厳しく偏屈になっていったのか、その一端を垣間見ることが本作の魅力となります。

で、主人公となるオーヴェですが、まぁ偏屈を通り越して少々DQNなジジイでして、例外無くルールに対しては異常に厳しく何とも付き合いづらい人物です。

しかし彼の過去を覗くことで見えてくる人間性は決して否定できるものではなく、そのエピソードひとつひとつに答えがちりばめられています。

 

父の教え、友人とのやり取り、そしてロマンチックな妻との出会いと共に乗り越えた苦難の数々。

特に秀逸なのが妻との旅行で不運にも巻き込まれた事故のエピソード。

ルールを守らない人のせいで妻が抱えることになった障害、責任を追及しようにも助けてくれない司法や行政。

その結果として誠実な人柄ゆえに、理不尽な現実に対して憤りの塊となっっていったオーヴェの人生。

 

しかし障害を抱えた人生を受け入れ「今を生きる」と諭す妻に対し、怒りと悲しみを飲み込んで妻の夢のために奮闘し、自分ができる努力を果たしたオーヴェの姿は号泣もの。

彼の性根にある優しさが花開く名シーンかなと思います。

 

 

妻の助力で前を向く生き方を覚えた過去、その妻が亡くなり前を向けなくなった現在、そのコントラストが非常に鮮やかであり、優しい悲しさに溢れています。

度を越えた生真面目さ、それ故の協調性の無さが目立つ面倒な人間性ですが、本作の良いところは隣人たちが彼を避けようとせずにガンガン絡んでくるところ。

面倒で嫌がっている老人にどんどん頼みごとを重ねる天然な隣人が非常にユーモラスでして、このあたりのやり取りはほっこりする面白さがありますね。

 

要は不器用なだけで、その実誰よりも正直で誠実な人なんだということが過去の回想と共に紐解かれていき、その複雑な人間性を理解すると途端に可愛らしく見えてくる不思議。

演じるロルフ・ラスゴードの偏屈顔(褒め言葉)も相まって、非常に味わい深いキャラクターですな。

さすがに59歳には見えないけどな。

 

また孤独死や社会的弱者など、日本にも通ずる問題が物語の背景となっており、それはつまり日本映画としても作れたであろう物語だという点にも個人的に注目したいところ。

少女漫画原作の若い子向け恋愛映画も良いけれど、たまにはこういう作品を作ろうよ。

 




 

まとめ

原題を直訳すると「オーヴェと呼ばれた男」となります。

邦題である「幸せなひとりぼっち」という題も悪いとは言わないまでも、やはりオーヴェという孤独な老人の物語として観た方がしっくりきます。

 

要は偏屈じいさんの生涯を描いた物語になるわけですが、老人の話って結構面白いものですな。

実際に自分の親父や爺様に聞かされたら「うわぁ、面倒くせぇ、、」とか思ってしまいそうな話ですが、そういった思い出を面白おかしく、美しく仕上げた作品として良くできているように思います。

筆者はオーヴェほどの人生経験はありませんが、それでも短い人生を振り返り、今まで何を大事にしてきたのか、これから何を大事にするべきなのかという”心の整理”をする良い機会になった気がします。

 

やっぱりスウェーデン映画は良いですなぁ。

オススメです。

ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。



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