狂四朗2030


1997年~2004年
スーパージャンプ(集英社)
作者:徳弘正也
全20巻

 




 

「ジャングルの王者ターちゃん」で有名な徳弘正也が描く近未来・サスペンス・アクション作品。

余談ですが「ONE PIECE」の著者・尾田栄一郎がアシスタントを務めていたのも有名なお話。

極めて多角的な視点を持つ作品で、複雑な要素が絡み合い、読む人ごとに抱く感想が変わりそうな面白い漫画と言えます。

 

強い管理社会の毒を描く作品であり、個性的なキャラクターによる重厚な人間ドラマでもあり、作者得意の迫力ある戦闘シーンと豪快な下ネタで魅せる作品でもあり、主人公とヒロインの純情な愛を描く作品でもあります。

非常に良く練られた構成で面白いことは面白いんですが、下らないギャグや下ネタの中にある陰鬱な展開はちょいと人を選びそうですね。

 

 

 

さっくりあらすじ

2025年に終結した第三次世界大戦後、日本は優生学思想を基盤としたゲノム党が実権を握っており、男女が隔離された管理社会となっている。

元軍人で治安警察の巡査・廻狂四朗は関東で「敗残兵狩り」の任務につく日々を送っており、鬱々とした日常の唯一の楽しみは「バーチャルSEXマシン」の仮想空間で出会った女性・志乃に会う事だった。

仮想空間内だけでの付き合いではあるものの互いに愛を育み、「志乃」が現実に存在することを知ると次第に想いを募らせる狂四朗。

そして国家反逆罪に問われることを覚悟の上で、志乃に会うため北海道にある中央政府電子管理センターを目指すのだが、、、

 

 

 

 

主人公・廻狂四朗
アホでスケベだが極めて強い戦闘能力を誇る
戦いの中、スイッチが入ると、、、

 

 

 

 

 

陰惨なラブストーリー

そもそもの大前提として、本作に於いての社会背景、それに伴う思想や人物描写、全てが狂っております。

これは悪い意味で狂っているんじゃなくて、文字通り”世界”が狂っているんです。

人口爆発&環境破壊による食糧難を発端に始まった第三次世界大戦、それに伴う核兵器の大量投入により世界人口の8割が消滅した世界が舞台なわけですが、この時点で相当に世の中が狂ってますよね。

 

軍事国家へと姿を変えた日本は「ゲノム党」が政府の中枢に鎮座し、選民思想を中心としたイカれた政策を進めています。

その思想の根源となるのが「M型遺伝子理論」という考え方。

心の設計図とされる”M型遺伝子”により人の将来は決定され、遺伝子に異常が見つかれば「犯罪者になる可能性が高い・国家に不利益をもたらす」者として、差別の対象になるというカオスっぷり。

さらに、それらに加え度を越えた男尊女卑がまかり通る日常生活。

「デザインヒューマン」と呼ばれる人道から外れた人間たち。

そして「オアシス農場」と呼称される国民の99%を軟禁する施設などなど、、

 

ここまで徹底して反吐が出るような管理社会を描き切った作品はそう多くはないのではと思います。

また、このような狂った社会・モラルが土台となっているのが本作最大の魅力とも言えますし、ここに対して興味を持てるか、もしくは嫌悪感を抱くかで作品の評価が真っ二つに割れることでしょう。

 

 

こういった非常にアクの強い作品を更に際立たせるのがエログロな表現であり、少年誌ではおよそ不可能であろうギリギリの描写は非常に興味深いものです。

敵を倒す際のゴアな表現や、このような世界で女性が生き抜く過酷さ、そして各キャラクターが持つ異常性はなかなかお目にかかれないレベルで常軌を逸しております。

あと性的な描写はエロ本なみにエロいので、読む際は気を付けましょう。

 




 

まとめ

読み手の予想の遥か上をいくハードコアな作品です。

かなり人は選びますが、個人的には名作と言って差し支えないかなと思います。

「ターちゃん」のようなほのぼのとした漫画ではありませんが、下品でくだらないギャグの数々、それをかき消すほどのシリアスで残酷な描写、その振り幅の中に存在する骨太なストーリーと、読み応え十分な濃厚さがありますね。

とはいえ一貫して荒廃した政治的要素が絡む社会背景と、その中で輝く愛のお話なので下品ではあってもゲスではありません。

 

既存の漫画とは一線を画す作品として、一度は手に取って欲しいかなと思います。

ぜひ一度ご拝読くださいませ。

 

 

 



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