(原題:Murder on the Orient Express)
2017年/アメリカ
上映時間:114分
監督:ケネス・ブラナー
キャスト:ケネス・ブラナー/ペネロペ・クルス/ミシェル・ファイファー/ウィレム・デフォー/ジュディ・デンチ/ジョニー・デップ/他
アガサ・クリスティ著の傑作「オリエント急行の殺人」を映画化したサスペンス。
1974年にも映画化され、その後も数々のドラマになった有名な原作であり、良くも悪くもネタバレがデフォになっている異色の人気作です。
いわゆる古典的名作というやつですな。
監督&主演を務めたケネス・ブラナーはイギリス王立演劇学校を首席で卒業後、数々のシェイクスピア演劇に出演した超エリート俳優。
それでいて「マイティ・ソー」の監督も務めるなど、型に囚われない柔軟な想像力を併せ持つ稀代の天才です。
さっくりあらすじ
エルサレムでの事件を解決した探偵エルキュール・ポワロは帰国のため、トルコのイスタンブールから寝台列車「オリエント急行」に乗車する。
冬の閑散期にも関わらず客室は満員であり、ポワロは支配人を務める友人にお願いし、半ば無理やり乗せてもらうことにした。
一等客室には様々な人間が乗車し、ポワロも豪華な客室や食事など、束の間の休暇を楽しむ。
しかし2日目の深夜に誰かの悲鳴が聞こえ、ポワロが目を覚ますと共に雪崩が発生し、列車が脱線してしまうのだが、、、
エルキュール・ポワロ
世界一の名探偵
エドワード・ラチェット
胡散臭い大富豪
オリエント急行内で殺人事件が発生
雪崩で運行も止まってしまう
本格派
アガサ・クリスティーという稀代の作家が描くミステリーと、それを彩る素晴らしいキャスティングと、文句無しで本格派な作品です。
非常に有名な物語だけに結末は知っていますし、既定路線の上を行く作品でありながらも、十分に満足できる完成度を誇っています。
何よりも優れた原作に頼ることなく、映像的にも楽しめる要素を足したのは良い判断でして。
通常のリメイク作品であれば、こういった追加要素が蛇足に感じることも少なくないのですが、本作に限っては完璧と言えるほどに良い塩梅。
魅力的な物語に視覚的な面白さを加え、より奥行きのある映画になっていますね。
そんな優れたバランス感覚を発揮したのが監督・主演を務めたケネス・ブラナー。
改めて説明すると俳優・監督・脚本に加えプロデューサーまでこなすマルチな天才ですが、元々は舞台俳優として活躍していたお方です。
本作は豪華な俳優陣に目がいきがちですが、これらを完璧に調和させたケネス・ブラナーの才能を感じ取る映画と言っても過言ではないと思います。
もちろん俳優としても極めて素晴らしく、豊かな演技力や台詞回しはどれを取っても一級品。
演劇や映画に関して、これほどに才能とキャリアを欲しいままにする方はそう多くはないでしょう。
物語としては、休暇目当てに寝台列車に乗車した名探偵が不可解な事件に巻き込まれていく流れ。
先述したように面白い演出が多く、上から視点で車内を見まわしたり、長いカットで車内を移動したり、列車内でありながらも閉塞感を感じさせない工夫が見て取れます。
詰まることなくテンポの良い展開は賛否が分かれそうですが、結末が分かっているが故にミステリー性を抑え、エンタメ性に重きを置いた判断も個人的には良かったかな。
若干の性急さは感じますが、映画としてはこの演出が正しいのではないのでしょうか。
何よりも密室殺人という閉鎖的な空間内で、それぞれが存分に存在感を発揮する俳優陣の演技が色濃く反映され、これだけでも十分に観るに値するものだと思いますね。
不満点としては、一流の俳優をかき集めておきながらも、ケネス無双が少々過ぎること。
その卓越した演技力は実に素晴らしいのですが、焦点がポワロから殆ど動いていない印象で、他のキャラクターにも時間を使って欲しかったなと。
監督&主演の作品には付き物とも言える弱点ですが、本作も例にもれずそんな感じ。
なまじ完成度が高いだけに、些細な不満が目立ってしまうのは贅沢な話かもしれませんが。
最期に、12人の乗客が重大な役割を担う本作ですが、故意か偶然か「12」という人数はアメリカの陪審員の数と重なります。
罪を裁くのは司法か、人か。
納得のいかない司法の判断が繰り返す現代に於いて、こじつけ気味ではありますが、一石を投じる内容だと思いました。
絶対にマネしちゃダメなやつだけど、犯人の気持ちは深く理解できますよね。
まとめ
特に不満も無く、知っている物語だけに新鮮な印象も無く、過去作を観たことはないので比べようもなく。
概ね良く出来た、完成度の高い良作だと思いますし、続編があるのならぜひとも観てみたいとも思います。
古典的作品だけに古くからのファンには受け入れ難い部分も少なくないでしょうが、逆にそれ以外の殆どの方は楽しめることでしょう。
何度も映像化される本格派ミステリーの傑作として、一度は観て欲しい作品ですな。
ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。