クラウド アトラス

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(原題:Cloud Atlas)
2012年/ドイツ/アメリカ/シンガポール/中国
上映時間:172分
監督/脚本:ラナ・ウォシャウスキー/トム・テイクヴァ/アンディ・ウォシャウスキー
キャスト:トム・ハンクス/ハル・ベリー/ジム・ブロードベンド/ヒューゴ・ウィーヴィング/ジム・スタージェス/ぺ・ドゥナ/ベン・ウィショー/ジェームズ・ダーシー/キース・デヴィッド/他

 




 

毎年多くの映画が公開される中で、未だに観たことの無い映画の形。

こんな映画があるものかと感服いたしましたよ、えぇ。

 

19世紀から23世紀までを6つの時代とエピソードに区切り、輪廻転生をモチーフに時代を紡いだ壮大な物語。

特殊メイクを多用し、各時代を同じ俳優が演じるというユニークな発想が斬新であると共に、善意や悪意が世代を超えて輪廻するという非常に難解な内容でもあります。

 

監督/脚本を務めたのは「マトリックス」シリーズで有名なウォシャウスキー兄弟、もとい姉妹。

余談ですがラナ(旧ローレンス)は2008年に、リリー(旧アンディ)は今年2016年に(奇しくも筆者の誕生日に)性転換手術を受け、晴れて女性となったようです。

 

 

さっくりあらすじ

隻眼の老人・ザックリーは静かに物語を語り始める。

1849年、弁護士・ユーイングは奴隷貿易の契約を終え、医師・グースと共に帰路につく。

船に隠れていた脱走奴隷・オトゥアを助けることになるが、船に積まれた金を狙うグースに毒を盛られ、瀕死の状態になっていたところをオトゥアに救われる。

この一見からユーイングは考えを改め、妻ティルダと共に奴隷解放運動へと身を投じることになる。

 

1931年、英国で音楽家を志す青年・フロビシャーは著名な作曲家・エアズの元で働き、ユーイングの航海日誌を愛読しながらも自身の協奏曲を作曲していた。

しかし完成間近の協奏曲を奪おうとしたエアズに向かい発砲したため逃亡を余儀なくされ、「クラウド・アトラス六重奏」を完成後、恋人のシックススミスに遺書を残し、拳銃自殺をしてしまう。

 

1973年、米国で物理学者となったシックススミスは原子力発電計画に従事していた。

原子力発電の欠陥に気づき、告発するためにジャーナリストのルイサに報告書を託そうとするも、暗殺者・ビルに殺されてしまう。

同様にルイサも命を狙われるが、亡きルイサの父の戦友・ネピアやシックススミスの姪・メーガンの協力もあり、報告書は白日の下にさらされることになる。

 

2012年、編集者のカベンディッシュは新人作家の原稿「ルイサ・レイ事件」を抱えていた。

作家のダーモットは嫌っていた批評家をパーティー中に殺害し一躍時の人となり、ダーモットの出版元だったカベンディッシュの出版社は大儲けする。

しかし服役中のダーモットの手下に恐喝され、兄のデニーに助けを求めるも裏切られ、閉鎖的な老人介護施設に入所させられてしまう。

カベンディッシュは施設の仲間と計画を立て、凶暴な看護師・ノークスを罠に嵌めて脱走、自身の体験から「カベンディッシュの大脱走」を執筆しながら、かつての恋人・アーシュラと余生を過ごす。

 

2144年、純潔の人間が遺伝子操作で作られた複製種の人間を支配し、労働力として使役していた。

ネオソウルで給仕として働く複製種のソンミ451は、ある時「カベンディッシュの大脱走」という映画を観て自身の境遇に疑問を抱く。

偶然から革命家のチャンに保護されたソンミだったが、解放され自由を手にしたはずの複製種の仲間たちが実際は処分され、複製種の食事に回されているという実態を知ってしまう。

ソンミは革命軍と共に立ち上がり、放送施設を占拠し世界に向けて演説を行うもチャンを含む革命軍は全滅、拘束されたソンミはチャンへの愛を語った後に処刑される。

 

2321年、人類の繁栄は崩壊した地球。

とある島で、凶悪な食人族に怯えながらも人々は女神・ソンミを崇拝し、素朴な生活を送っていた。

島の住人ザックリーは自身の心の闇である人格オールド・ジョージーの姿に悩まされ、村でも孤立している。

そんな中「昔の人」の技術を保有するプレシエント族のメロニムが島に上陸し、人々が崇め恐れる「悪魔の山」へのガイドを探しに村にやって来る。

姪の命を救ってもらうという条件でガイドを引き受けるザックリー、オールド・ジョージーの囁きにもめげずにメロニムの命を救い、二人は無事山頂へと辿り着く。

汚染により地球の生命は滅びの時を迎えていると告げ、メロニムは山頂に建設された宇宙港から宇宙コロニーへと救難信号を送り、ザックリーと姪もプレシエント族の住居へと移住する。

 

2346年、地球から遠く離れた惑星で、老人ザックリーは話を終える。

 

 

 

 

cloud-atlas-halle-berry-tom-hanks-movieこんな感じで1人6役をこなします

 

460x300_benwhishaw_cloudatlas個人的には1931年のエピソードが秀逸
これだけでも映画作れると思う

 

 

 

 

”協奏曲”という映像

「クラウド・アトラス六重奏」という曲を据えるだけあって、6つの時代が紡いでいく壮大な物語です。

全然さっくりなあらすじではなくなってますが、これ以上はしょれません。

実際に172分という長丁場な作品なんで、相応に気合を入れないと観てられないのが正直なところ。

しかも順序良くプロットが進むのではなく、交互にエピソードが前後する形なので、休憩の挟みどころも難しい上級者向けな映画と言えます。

 

物語のテーマは劇中で語られる「全ての善意、全ての罪が未来へと繋がる」という一貫した輪廻転生、奴隷問題や放射能問題という現代にも通ずる社会問題、あとは少数派や虐げられる側の人間の自由と解放といったところか。

さらに掘り下げれば、性転換したウォシャウスキー姉妹による、偏見や差別に対するメッセージも含まれているのかもしれません。

 

 

”前世”や”来世”という概念を信じる人ならば、それなりに響くものはあるのではないでしょうか?

残念ながらスーパーリアリストの筆者には全く響きませんでしたが、、、でも伝えたいことは理解できますけどね。

 

ドラマあり、サスペンスあり、アクションあり、ラブストーリーありと、ある種の人類史をなぞっていくような映画なので見応えは十二分にあります。

ウォシャウスキー姉妹と「ラン・ローラ・ラン」のドイツ人監督トム・テイクヴァが表現する映像美も一見の価値ありです。

 

 

特に1931年のエピソード、ベン・ウィショー演じるゲイの青年フロビシャーの物語は非常に刹那的で美しく、これだけで映画を一本作ってほしいくらい。

めちゃめちゃストレートな筆者ですが、ベン・ウィショーの魅力は凄まじく、優しく繊細で、簡単に壊れてしまいそうな天才の姿に思わずキュンキュンしてしまいます。

恋人と二人で食器を割るシーンは何とも美しく迫力があり、夜明けにタバコを吸うシーンは神々しく美しい。

輪廻転生があるのならば次はこんな人間に生まれてみたいものです、自殺しちゃうけどな

 




まとめ

原作は読んでいませんが、「映像化不可能」と言われた大作をこれほどに高い完成度で仕上げた手腕は見事としか言いようがありません。

エンドロールで流れる役者のネタばらしもユーモアがあり、「コイツこの人が演じてたの!?」とビックリすること間違いなし。

 

かなり人を選ぶ作品なので万人が面白いと受け取るとは到底思えませんが、不確定な”魂”という概念を考えてみるにはうってつけの映画かと思います。

ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。



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