(原題:The Devil’s Own)
1997年/アメリカ
上映時間:111分
監督:アラン・J・パクラ
キャスト:ハリソン・フォード/ブラッド・ピット/マーガレット・コリン/ジュリア・スタイルズ/ルーベン・ブラデス/トリート・ウィリアムズ/ミッチ・ライアン/ナターシャ・マケルホーン/ポール・ローナン/他
社会的な問題を背景に、老いた警官と若きテロリストが紡ぐサスペンス・ドラマ。
突然ですが、IRAという組織をご存知でしょうか?
「アイルランド共和軍」という組織の略称ですが、アイルランドをイギリスの支配下から抜け出し、独立させることを目的とした武装組織を指します。
現在では過激派・暫定派に別れ、一部テロ活動に走る人もいるようですが、1997年以降には概ね武装は解除され、対話による決着が望まれているようです。
とはいえ、政治的・歴史的な怨恨や、利権が絡んだ複雑な問題なので、長く尾を引くであろうイギリスの課題でもあります。
本作はそんなIRAをテーマに、ハリソン・フォードとブラッド・ピットという、世代を超えた2大スター競演による社会派な映画です。
さっくりあらすじ
目の前で父親をイギリス人に殺されたフランキーはIRA活動家になり、携帯式ミサイルを購入するため身分を偽り、「ローリー」としてニューヨークへとやって来る。
同じくIRAメンバーであるフィッツシモンズ判事の助力もあり、「ローリー」ことフランキーはニューヨーク市警の警官・トムの家に居候することに。
覆面生活は続き、トムとの間にも信頼関係が生まれ、トムの娘からも慕われるフランキー。
しかし、ニューヨークの武器商人との取引が水面下で進んでいくのだが、、、
若きIRAメンバーのフランキー
昔も今も、ブラピはカッコいい
曲がったことが許せない警官トム
フランキーを気に入り始めるのだが、、
それぞれの”正義”
ブラピ中心で製作に入った映画ですが、大御所ハリソン・フォードを脇役に配置するのはどうだろう?と脚本を変更した経緯があるそうな。
さらにハリソン・フォードの鶴の一声でパクラ監督が抜擢され、物語の人物設計が煮詰まる前に製作が始まってしまった珍しい作品です。
実際に製作は遅れに遅れ、引っ張りだこで仕事が山積みのブラピと、ベテランのハリソン・フォード間では、かなり不穏な空気が漂っていたそうな。
大物俳優とこれからの大物俳優と、間に挟まれるプロデューサーの心労は推して知るべし。
演出による部分も大きいのですが、華やかさと共比例して犯罪も多い大国・アメリカ。
ニューヨークで警官として日々犯罪を追うトムですが、家庭は平和と愛情を感じるほどに平穏なものです。
しかしフランキーの故郷であるアイルランドとIRAは英国政府との闘争が続き、大義の名の下に続く暴力が蔓延している現実があります。
「ローリー」としてトムの家に潜伏するフランキーですが、トムや家族と触れ合う姿は非常に優しく、思いやりのある素敵な青年です。
それが彼本来の姿なのか、作りこんだキャラクターなのか、真実はハッキリとは分かりません。
それでも長く続く闘争と、それがもたらす怨恨の螺旋がフランキーを変えてしまったことは確かでしょう。
この頃すでにトップスターだった、若き日のブラピがとにかく素敵です。
昔から変わらず超絶イケメンですが、彼の背に垣間見えるやるせなさはさすがの演技力ですね。
対するハリソン・フォード演じるトムも、うすうすローリーの正体に気づき始めるのですが、ローリーが背負っているものの重さが理解できず、何をすれば正しいのかが分からなくなってしまいます。
正義を追い続けた初老の男、そんな彼の下した正しい決断はなかなかに考えさせられるのではないでしょうか?
余談ですが、監督を務めたアラン・J・パクラは1年後の1998年に交通事故で他界してしまった為、残念ながら本作が彼の遺作となってしまいました。
合掌。
まとめ
新旧のスーパースターが競演した映画ですが、派手さは無く、むしろ重苦しい作品ではあります。
しかし、正義という観念に縛られ衝突してしまう人間の性と、人間が本来持ち合わせているはずの思いやりの対比を上手に描いた作品でもあります。
日本に住む我々にはあまり馴染みの無い世界の話ですが、ドラマとしてもそこそこに良く出来てますし、1度は目を通しても良いんじゃないかなと思います。
ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。