(原題:First Man)
2018年/アメリカ
上映時間:141分
監督:ディミアン・チャゼル
キャスト:ライアン・ゴズリング/クレア・フォイ/ジェイソン・クラーク/カイル・チャンドラー/コリー・ストール/パトリック・ヒュジット/他
人類史上、初めて月面を歩いたニール・アームストロングの軌跡を描いた伝記的ドラマ。
正確には1961年~1969年にNASAで行われた一連のミッションを背景に、アームストロング氏が歩んだ光と闇の歴史が描かれます。
というのも、最大の特徴として、物語が暗い。
とっても暗い。
この手の映画は成功も失敗も輝かしく描かれるものですが、現実に起きた事件の数々や犠牲になった人々など、決して無かったことにはできない事実は間違いなく成功に影を差すもの。
宇宙探査はロマン溢れる世界の話ではありますが、ロマンだけでは語れない悲しい過去を描いた異色の映画と言えるでしょう。
さっくりあらすじ
テストパイロットを務めていたニール・アームストロングは操縦の未熟さ故に退任となるが、愛娘の死をきっかけにジェミニ計画に応募する。
NASAの宇宙飛行士として選ばれたニールは家族共々ヒューストンへと引っ越すと、NASAは宇宙開発で先を行くソ連を見返すと宣言し、厳しい訓練の日々を送る。
切り離した小型船を母船へと戻す計画=ジェミニ計画へ向け、仲間との絆を育み、ミールは過酷な訓練をこなしていくのだが、、、
ジェミニ計画へと参加するアームストロング
宇宙船の中は暗く、孤独
そして危険
犠牲
まず最初に感じるのが、宇宙飛行士とは非常に危険な仕事だということ。
筆者が幼い頃は、スペースシャトルの空中分解などの様々な事故などがニュースで流れていたような気がしますが、昨今ではあまり効かなくなりましたよね。
それだけ安全管理も進化しているということでしょうが、すっかり宇宙飛行士の背負う危険性を忘れていたように思います。
ロケットに乗って宇宙へ飛び立ち、宇宙空間で作業をする。
これは当然危険なものだと容易に想像できるものですが、そこに至るまでの長く険しい訓練やテストも危険を伴うわけですな。
当たり前と言えば当たり前ではありますが、劇中で描かれる事件や事故の数々は実に生々しく、いかなる覚悟で宇宙飛行士と家族たちが宇宙へと向かうのかが良く伝わります。
しかし映画としては少々難ありな部分もあり、とにもかくにも淡白な仕上がりとなっております。
ずぅーっと淡々と物語が進み、静かに我慢と努力を重ねるアームストロングの人物描写もあり、とにかく起伏の無い展開が続くわけで。
伝記映画なのでマイナス点にはなりませんが、端的に言えば眠くなります。
とはいえロマンを追いかけた成功譚としてではなく、1人の人間の内面や苦悩をひたすらに描く宇宙映画は極めて珍しく、好みの差はあれど非常に価値のある作品だとも言えるでしょう。
当時の最新設備とはいえ、現代の感覚で観ればアナログ感満載の宇宙船内部の描写はもう怖いの一言。
最近の車よりもレトロな精密機器の数々は直感的に不安を煽るものであり、この装備で宇宙に打ち上げる(打ち上げた)というのは無謀にしか見えません。
船内の狭さと暗さ、打ち上げる際の揺れ、そして不具合によりグルグルと高速回転してしまう宇宙船。
このあたりのシーンが最も印象的で、これほどに閉塞感や恐怖感を体感させる映画は初めてと言っても良いかもしれません。
宇宙空間内でのピンチを描くエンタメ映画は数あれど、行き苦しくなるほどにリアルに描いたという点では本作が随一でしょう。
難点としては、感情表現に乏しいアームストロング氏の考えや気持ちが読めないこと。
先述したように淡々とした物語であり、いかにも映画的な盛り上げ演出が少ないため「何を思って命を懸けたのか」という最重要な点が分からないんですな。
これは各々が答えを見つけるべき作品だと理解はしていますが、それにしてももう少しヒントは欲しいっす。
まとめ
殆どの人は「思ってたんと違う」と感じるでしょうし、それ故に面白いかどうかの判定はボケやすいかなと思います。
味付けは薄めでも噛みしめるほどに味のある作品だけに、このディスアドバンテージはちょっと勿体ないですね。
かつては宇宙飛行士に強い憧れを感じ、もし来世に頭脳明晰で金持ちの家に生まれたら宇宙飛行士を目指そうと思っていましたが、大幅に考えを改めさせられた気がします。
民間の人間ですら目指すことができるようになり、グッと距離が近くなった「宇宙」
その礎とも言える危険なミッションを成功させ、人々の希望となった人間の内面を知る良い映画です。
でも眠くなるけどね。
良ければ一度ご鑑賞くださいませ。