(原題:Frost/Nixon)
2008年/アメリカ
上映時間:122分
監督:ロン・ハワード
キャスト:フランク・ランジェラ/マイケル・シーン/ケヴィン・ベーコン/レベッカ・ホール/トビー・ジョーンズ/マシュー・マクファディン/オリヴァー・プラット/サム・ロックウェル/パティ・マコーマック/クリント・ハワード
1977年に放送された、インタビュー番組を映画化したノンフィクション・ドラマ。
アカデミー賞5部門でノミネートされた評判通り、内容の深い映画となっております。
元々は舞台演劇だったようですが、映画化にあたりニクソン役とフロスト役はそのまま舞台役者が出演したそうで、迫力ある演技力は折り紙つきですね。
「インタビュー番組から数年後の関係者達の独白」というドキュメントタッチな流れで話は進みますが、内容としては討論、というか舌戦ですね。
言葉による闘争に迫力を持たせ、緊張感ある作品に仕上げた演技や演出は本当にお見事。
これはもう、すごいとしか言いようがありません。
1973年に、実際に起きたウォーターゲート事件。
筆者が生まれる前の事件の話なんで社会にどれほどの影響を与えたのか、ぶっちゃけよく分かりません。
詳しくはググってもらうとして、聞きかじった背景だけお伝えしておきます。
リチャード・ニクソン
アメリカ合衆国第37代大統領。
国際通貨体制と環境保護に尽力したがウォーターゲート事件にて辞職に追い込まれ、任期中に辞任した唯一の大統領となる。
外交が得意。
ベトナム戦争
南北に分裂したベトナムで起こった戦争。
実質は資本主義国家アメリカと、共産主義国家ソビエトの代理戦争とも言われている。
ウォーターゲート事件
ワシントンD.C.の民主党本部の盗聴侵入事件に始まる一連の政治スキャンダル。
それぞれの罪状は盗聴、侵入、事件のもみ消し、司法妨害、証拠隠滅など。
事実は小説より奇なりとは言うものの、すげぇなコレ。(゚д゚)
さっくりあらすじ
ウォーターゲート事件で辞任に追い込まれ、その後罪を認めることなく沈黙を貫いたニクソン元大統領。
辞任の中継を見ていたイギリス人TV司会者のデイヴィッド・フロストは、アメリカのショービジネスの参入という野心を胸に、ニクソンとの対談を思いつく。
大統領辞任から3年後の1977年。
フロストは代理人を通じ、高額な報酬と引き換えにニクソンへの単独TVインタビューを申し込み、ニクソンはこれを快諾。
鋭い質問を浴びせるために政治研究者と調査員を仲間に引き込み、着々と対ニクソンへの準備を進めるフロスト。
そして始まった独占インタビューだったが、、、
まさに舌戦
互いに人生を賭けた論争が始まります
こちらは実際の写真
静かに息を飲む緊迫感
とにかく映画のキャスティングが素晴らしいんです。
「アポロ13」や「ダ・ヴィンチコード」を手掛けたロンハワード監督は、人の内面を描くことに長けている監督です。
「政治」と「TVショー」という、遠いようで近い2つの世界。
その世界に生きる両者には、派手なパフォーマンスを求められるという共通点があります。
そんな人間が抱く野心や苦悩、さらにその下に潜む良心を掘り下げ、人というものの複雑さが描かれるわけですな。
特に目をひくのがニクソンを演じるフランク・ランジェラ。
政治家を引退し、アメリカ国民全員を欺く秘密を腹に抱えながらも、虎視眈々と政界への復帰を目指す恐ろしい男です。
あらゆる質問を煙に巻く老練な手腕はむしろ恐ろしく、そして自信に満ち溢れています。
国民の前で穏やかに手を振る姿は、穏やかな好々爺といった印象。
その一方で己の地位や権力、つきまとうイメージを守るためならば迷うことなく法すら無視するその姿はまさに政治のプロという感じ。
人の心を動かす怖さを持つ才能です。
さらにニクソンを支える参謀役を演じる、ケヴィン・ベーコンの演技もまた素晴らしい。
頭が切れ、忠誠心の塊のような信念を感じさせるこの男。
ニクソンを支えると共に、鉄壁を誇るニクソンの弱さを間接的に表現するわけです。
ニクソンもやはり人の子なんだと感じさせる、大切な役回りでした。
そしてそんな大物相手にインタビューの挑戦をするのが、イギリス人TV司会者のフロスト。
個人資産までつぎ込み、借金まみれになりながらもニクソンをTVに引っ張り出します。
逆にインタビューを受けるニクソンが、フロストのオファーを承諾した理由は”ちょろい相手”だから。
このインタビューにより、清廉潔白を印象づけることで政界復帰の足がかりにするつもりだったからです。
そんなこんなで始まるプロの政治家VSプロのインタビュアー。
映画を観て感じたのは、我々は政治家という生き物を舐めすぎだなと思います。
極めて老獪で腹黒い、そんな世界で生きる政治家の凄さが良く分かりますね。
まとめ
何十年にも渡って政治の世界で生きるということは、それだけ人の心を打ってきたということを意味します。
自分の弱みをひた隠し、他人の心を揺り動かし、その上で己の存在感を示す。
そんな老獪な政治家を、ちょっと政治をかじったくらいの素人が論破できるわけがないんです。
そんな当たり前の現実感を感じる描写が印象的で面白かったです。
強いニクソンがあまりに印象的すぎて、終盤は少し尻すぼみな感が否めません。
しかしニクソンとフロスト、まるでコインの表と裏のような二人のドラマにはなかなか感動させられました。
ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。
おまけ
ウォーターゲート事件で大きく人気を落としたニクソン元大統領。
彼の死後、外交と内政ともに卓越した手腕を発揮し偉大な功績を残した大統領の一人として評価されているようです。