作者:田中芳樹
1982年~1989年(トクマ・ノベルズ)
1992年・1998年(愛蔵版)
1988年・1996年~1998年(徳間文庫)
本編全10巻・外伝全5巻
その他、漫画・アニメ・部隊・ゲーム多数
アニメ化の話が続いて恐縮ですが、こっちはこっちで見逃せない傑作の予感です。
田中芳樹原作のSF小説であり、原作は合計1500万部を売り上げたベストセラー作品でもあります。
基本としては遥か未来の銀河系を舞台に、多くの英雄たちによる壮大な争いを背景に、敵対する2人の人物に焦点を当てた物語。
しかし文体としてはSFよりも歴史小説に近く、ハンパじゃない登場人物の数々に、戦争・政治・権謀術数から成る膨大な情報量など、読み応えという点では稀有なレベルの骨太な書籍と言えるでしょう。
大河ドラマ系が好きな方であればきっと楽しめるであろう内容ですが、小難しいのが苦手な方はコミックから入ってもそれなりに楽しめるのではと思います。
物語の世界観に浸ることができれば、ずば抜けた完成度のエンターテイメントを体感できる作品であり、大人向けの長編作品としてはかなりオススメです。
そして来る2018年4月、「攻殻機動隊」や「PSYCHO-PASS」などを手掛けたProduction I.Gによりリブート化が発表され、筆者を含むファンには待ちきれない楽しみとなっております。
しっかりあらすじ
遥か未来、宇宙へと進出を果たした人類は人類統一政府として銀河連邦を成立、しかし長い年月を経て政治体制は腐敗の一途を辿っていた。
社会に蔓延する閉塞感の打破が求められる中、連邦軍の英雄ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムは政治家へと転身し、民衆の圧倒的支持を得て強大な政治的権力を掌握し、首相と国家元首を兼任し独立政権を誕生させる。
ルドルフは終生執政官を自称した後に「神聖にして不可侵たる」銀河帝国皇帝に即位し、反対派を悉く弾圧・粛清し、自身を指示する臣民に対しては特権を与え、帝国の基盤となる貴族階級を形成していった。
ルドルフの死後、弾圧され続けた共和主義者たちは帝国歴164年に政治家アーレ・ハイネセンを中心とした集団が帝国からの逃亡を図り、半世紀に及ぶ銀河系の旅でハイネセンを事故で失うも遂に安定した恒星を発見、自由惑星同盟を建国する。
また地球出身の商人レオポルド・ラープの賄賂や工作により恒星フェザーンでは銀河帝国の主権の下でありながらも、内政に関しては自治権を有する第3勢力・フェザーン自治領が誕生。
こうして銀河は”銀河帝国”と”自由惑星同盟”と”フェザーン自治領”という3つの勢力に分かれ、銀河帝国と自由惑星同盟は互いに”専制政治”と”民主主義”という政治的思想を背景に、150年にも及ぶ抗争を続けていた。
長きに渡る戦争は国を疲弊させ、銀河帝国では門閥貴族による政治腐敗が、自由惑星同盟では衆愚政治が横行し、両国家は緩やかに衰退を始めている。
そして宇宙歴8世紀末、銀河帝国の”常勝の天才”ラインハルト・フォン・ローエングラムと、自由惑星同盟の”不敗の魔術師”ヤン・ウェンリーという2人の天才により、再び歴史が動き始める。
ラインハルト・フォン・ローエングラム
常勝の天才で銀河帝国の若き英雄
ヤン・ウェンリー
不敗の魔術師で自由惑星同盟の名将
新シリーズの映像は素晴らしい!
戦闘描写も迫力十分
最高の歴史群像劇
SFもの、ひいては架空戦記ものとしての基盤を作った作品と言っても過言では無く、またそう評されるに相応しい内容の濃い物語です。
スペースオペラ調な雰囲気を醸し出していますが、実際に読んでみるとSFというよりかは歴史小説を読む感覚に近く、政治や戦争を軸に思想や価値観を描いた作品として、ある意味で勉強にもなりますよ。
僕らに馴染みのある民衆を中心とした「民主主義」と、一部の権力者だけが改革を進める「専制政治」と、政治的な優劣が非常に興味深く、そして分かりやすく描かれます。
能力ではなく血筋による世襲制に重きを置き、いかなる無能であれ独裁的に権力を握る銀河帝国。
いつでもどこでも、2世・3世というのは難ありな人物が多いものですが、そういった点を生々しく表現することに親近感が湧くのかもしれません。
それとは対照的に民主主義でありながらも民衆が政治に対する関心を失い、派手なパフォーマンスを得意とする政治家が台頭し、結果的に腐敗を招く自由惑星同盟。
これまたリアルというか何というか、投票率のワーストを更新し続ける国の市民として、非常に現実味を帯びた社会背景と言えますね。
総じて人類の歴史上で繰り返された権力の連鎖を壮大に描いた物語とも言えますし、僕らが密接に関わる「政治」がいかに重要なものであるのかを改めて認識できる説得力に溢れています。
例えばですがトップが有能な人物であればいちいち選挙などせずに独断で進めた方が話が速いですし、役員会議で話し合うよりもワンマン社長の方がフットワークが軽いのはよくある話ですよね。
逆にトップが私利私欲に走ったり、単純に無能な人物であれば国家は衰退していきますし、それを食い止めるための手段として民主的な投票が生まれたわけで、そういう意味では投票率が下がり続けるのは深刻な話でもあるわけです。
こういった具合で現代社会にも通ずる政治的なお話は考えさせられるものがあり、下手に社会の勉強するよりもコッチの方が分かりやすいのではとすら思える緻密な描写も魅力と言えるでしょう。
また、それらを彩る戦闘シーンもまた緊張感があり面白いものです。
治安が良く、現在では戦争とは遠い平和状態にある僕らでも分かるような戦闘描写はやや強引ながらも非常に丁寧な構図であり、戦略レベルの描写、戦術レベルの描写を巧みに書き分け、こちらも色々と勉強になります。
そんな軍事的・政治的な側面の中で生まれた2人の天才、「常勝」のラインハルトと「不敗」のヤンがどう闘い、何を目指して生きたのかが本作最大の見所となるわけですな。
まとめ
極々一部だけを抜粋してのご紹介ですが、実際は本当に深く壮大で、あらゆる人物の思惑が交錯した複雑な物語です。
あまりに多くの登場人物や地名を含め、極めて情報量の多い作品なので、いざ読むに当たってはそこそこに覚悟がいります。
漫画やアニメなどの方が視覚的にも分かりやすいので個人的にはそっちをオススメしますが、どの媒体であれ一度は触れて欲しい作品ですな。
新シリーズが待ち遠しいですね、皆さんも予習しておきましょう。
ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。