
(原題:Hairspray)
2007年/アメリカ
上映時間:117分
監督:アダム・シャンクマン
キャスト:ニッキー・ブロンスキー/ジョン・トラボルタ/ミシェル・ファイファー/クリストファー・ウォーケン/ブリタニー・スノウ/アマンダ・バインズ/クイーン・ラティファ/ザック・エフロン/他
1988年に公開された映画ですが、2002年よりブロードウェイでミュージカルとして上演され、トニー賞を含む数々の賞を獲得。
さらにそれが再び映画化するという何とも珍しいユニークなミュージカル・ドラマ作品。
個人的にミュージカル映画というものが非常に苦手で、あまり面白さを見出せなかった筆者です。
しかし本作を観て考えを改めたと言いますか、映画とミュージカルにおける価値観を見直す機会になった作品でもあります。
とにかく明るく楽しく、歌って踊る役者の姿は元気いっぱい。
歴史に深く根差す人種差別をテーマに掲げながらも、悲壮感の欠片も感じさせず、各キャラクターが彩る世界観は非常に魅力的で素晴らしいもの。
ミュージカル風の映画とはいえ、カメラワークや脚本・構成、そして演出と。
どれをとっても映画として基本に忠実で見やすく、誰が観ても楽しめるような工夫も随所に感じます。
さっくりあらすじ
1962年アメリカ、メリーランド州ボルチモア。
黒人差別が未だ根強く残る街に住む、ポッチャリ娘のトレイシーは天真爛漫で歌と踊りが大好き。
ダンス番組「コーニー・コリンズ・ショー」に出演し、憧れのダンサー・リンクと踊る日を夢見ている。
ある日、番組の新メンバー募集オーディションの話を聞いたトレイシーは母・エドナにオーディションを受けることを嘆願するも、内向的なエドナはポッチャリ娘が傷つくことを恐れ、消極的な返事しかしない。
最終的に父・ウィルバーの後押しもあり、晴れてオーディションを受けに行くも、プロデューサーのヴェルマに”太っている”ことを理由にあっさり落とされてしまう。
しかし、居残り授業で仲良くなった黒人達に教わったR&Bのリズムとステップを覚え、「コーニー・コリンズ・ショー」主催のダンスパーティーで注目を集め、ショーのダンサーに抜擢されることに。
ショーのスポンサーである「ヘアスプレー」は大幅に伸び、一躍人気者になったトレイシー。
しかしR&Bや黒人たちの人柄に触れた影響で、「毎日をブラック・デー(月1日だけの黒人ダンサーの日)にしたい!」と叫んだことで状況は一変。
コーニーやシーウィードの母・メイベルの賛成を得ながらもヴェルマの猛反発にあい、デモ行進のような社会現象にまで発展してしまうのだが、、、
主人公・トレイシー
明るく能天気なポッチャリ娘
母・エドナ
ジョン・トラボルタの神演技に注目
フィナーレの盛り上がりはすごい!
一見の価値あり
何もかもが素晴らしい
人種差別、肥満に対する差別、ブロンド娘に対する差別、、
本気で捉えれば難しく根深い差別意識をコミカルに、明るく、前向きにする演出には脱帽です。
太っていることや肌が黒いことは”個性”なんだとド直球に訴えかける熱量はものすごく、自己や人種に対する誇りを前面に押し出し、そして分かち合う価値観はとても感動します。
なんだったら黄色い肌の誇りは何なのかも教えてほしいくらい。
どの役者も非常にキャラが立っていて、映画が伝えようとする各登場人物の”個性”も注目してほしいところ。
演技面で特筆すべきはトレイシーの母・エドナを演じるジョン・トラボルタ。
所要時間6時間、という異常に作り込まれた特殊メイクも素晴らしいですが、それが霞むほどの好演は非の打ちどころなし!
ちょっとした仕草や表情まで「内向的な太ったおばさん」に徹しており、太っているコンプレックスを抱えている悲壮感や、夫の浮気を疑った嫉妬、そして自己を解放し踊るシーンなど、どれをとっても素晴らしいの一言。
ものすごく重たそうな特殊メイクを抱えながらも、キレッキレのダンスを披露してくれるあたりはさすがとしか言いようがありません。
そしてトレイシーの”敵”として立ちはだかる性悪プロデューサー・ヴェルマことミシェル・ファイファーの存在感。
年齢を感じさせない美貌に野心的な顔、元ミス・ボルチモアとしての威厳や威圧感は良い意味でハマっています。
ついでにトレイシーの父・ウィルバーを演じるクリストファー・ウォーケン。
めちゃくちゃ脇役ではありますが要所要所での存在感が素晴らしく、どこか抜けている優しい父親としてトレイシーやエドナを支えています。
元々の顔の作りは悪人面かなと思っていましたが、おデブな妻に恋し続けているおじさんの姿は何ともほっこりさせられますね。
この3人の役者としての風格や演技力は抜群で、歌と踊りを中心に、若手の俳優やダンサーの勢いで進みがちな映画を締める役割を果たしているように感じます。
ミュージカルなので当然ではありますが、シーウィードことイライジャ・ケリー、並びにメイベルことクイーン・ラティファの歌唱力も抜群。
全体的にポップな曲調が多い中で、彼らが歌うR&Bはしっとりと奥深く、常人離れした低音、高音はとても印象深く耳に残ります。
まとめ
総じて演出、演技、音楽、構成、どれも非常にレベルが高く、ベテランが元気溢れる若手を支えているキャスティングもあいまって、もはや何も言う事はありません。
歌も踊りも演出も面白く、映画としての完成度は素晴らしいレベルにあると言っていいでしょう。
よほどミュージカルを嫌悪している人か、人種差別を理解した風なひねくれ者以外であれば誰でも楽しめる名作です。
言ってしまえば娯楽映画になるので、社会問題の提起や青春物語という面は二の次なわけで、素直に明るく楽しく観るべきかなとは思います。
大人も子供も楽しめる、ミュージカルが苦手な人でも楽しめる、ついでに現実社会に存在する差別まで学べる懐の深さがあります。
名作です。
ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。