(原題:Knockin’ on heaven’s door)
1997年/ドイツ
上映時間:87分
監督/脚本:トーマス・ヤーン
キャスト:ティル・シュヴァイガー/ヤン・ヨーゼフ・リーファース/ティエリー・ファン・ヴェルフェーケ/モーリッツ・ブライプトロイ/ルドガー・ハウアー/他
元タクシードライバーの脚本家トーマス・ヤーンが俳優兼プロデューサーのティル・シュヴァイガーに脚本を送り、ティルが深く気に入ったために実現した作品。
当時すでに大物俳優として名を馳せていたルドガー・ハウアーが「マネジメント(金)なんか気にすんな」と漢気を見せたことで完成した名作映画でもあります。
(当時ルドガーのギャラは日当10万ドルとも)
ティル・シュヴァイガー自身も本作でモスクワ映画祭の最優秀主演男優賞を獲得し、文字通り彼の出世作にもなりました。
さっくりあらすじ
とある病院で検査を受け、余命わずかであることを告げられた脳腫瘍患者のマーチンと骨髄腫患者のルディ。
同じ病室に入院した二人は冷蔵庫で見つけたテキーラを飲み、互いにもう長くはないと語り合う。
ルディは今までに海を見たことが無いと言い、マーチンは天国では海の話をするのが流行っていると言う。
ルディが天国でのけ者にされないように、駐車場のベンツを盗み、海を目指して出発する二人。
しかしトランクに大金が入っていたベンツはマフィアのものであり、警察とマフィアが二人の後を追うのだが、、、
余命わずかの二人
キッチンで語る”海”の話
逃走先で豪華ホテルに宿泊
生きてる間の願いをメモにする
そして辿り着いた海
彼らは何を思うのか
「天国じゃみんな海の話をするんだぜ」
もうカッコ良すぎでしょ、このフレーズ。
”余命をどう生きるか”というテーマの作品は数多くあるものの、本作が一線を画すのは”最高の死に方を目指す”ところにあります。
天国で仲間外れにされないように気を使うという発想はとても斬新であり、死を前にしてそんな呑気なことを言えないであろう現実があるからこそ、映画としての魅力が輝くわけです。
物語としては死にかけの男性二人が盗んだ車で海を目指し、結果的に数々の犯罪を犯しながら逃げていくというもの。
これだけ書くとはた迷惑な逃避行に見えますが、そこに笑いあり、涙あり、様々な人の想いが交錯して純度の高いドラマとして完成しています。
偶然ギャングの大金をゲットした二人の逃避行は全体的にコミカルで、彼らを追う警察もギャングもほぼお笑い担当と言っても良いでしょう。
特に大金を取り返すべく奮闘するマフィア二人組は何とも間抜けで結構笑えます、何故か愛嬌があり愛すべきバカといったところ。
しかし徐々に症状として迫って来る”死”の足音は残酷であり、時おり顔を出すつらい現実が、死ぬことに対する恐怖感を再認識させます。
本当に脚本が良く出来ていて、明るく楽しく、爽やかさすら感じる二人の逃避行だからこそ、影を差す死の概念が嫌でも際立つように感じます。
楽しさと恐さの温度差を大きく演出してるんですよね。
ティル・シュヴァイガー演じるマーチン。
ヤン・ヨーゼフ・リーファース演じるルディ。
共に非常に魅力的なキャラクターです。
マーチンはイマイチ何を考えているのか掴めない男ですが、結構ヤンチャをしてきたような素振りがあります。
常識外れでどこでもブカブカ煙草を吸うし、逃避行も彼の主導で始まっています。
でも彼の叶えたい夢は「母にキャデラックをプレゼントすること」
プレスリーの大ファンである母のために、プレスリーの真似をして免許も持っていない母にキャデラックをプレゼントするシーンはかなりグッと来ます。
不器用で分かりづらいだけで、本来は真っ直ぐな人間なのかもしれません。
対してルディはいたってまともな常識人であり、むしろ人一倍臆病なところすら見て取れます。
どちらかと言えば受動的で、逃避行もマーチンにつられているようなところがあり、犯罪者の自覚も薄めな印象です。
しかし必要な薬を調達するために、薬局で銃をぶっ放すシーンはグッと来ます。
自分の殻を破ったかのような、死を目前にしてようやく自由になれたような演出は何とも感慨深く、マーチンと比較して”普通”であった彼の魅力が一層際立つシーンです。
ちなみに彼の夢は3P、、、うん、気持ちは分かるけどな。。
そして特筆すべきは、ルドガー・ハウアー演じるマフィアのボス・カーチス。
マフィアはひょんなことから逃げた二人組を捕まえ、金を返せば命は助けてやると言うものの、もう金は無いよと笑う二人。
もうすぐ死ぬのに「命は助けてやる」と言われ無邪気に笑う姿は笑えるような悲しいような、、
そしてTVで二人を見たカーチスは「海を見に行きたい」と訴える二人に対して「時間が無いだろうから早く行け」と促し、二人が去った後で手下に言い聞かせます。
「天国で誰もが話題にするのが海の話だよ、、」
もうカッコ良すぎでしょ!”粋”ですよ”粋”!もはや江戸っ子の如し。
そしてようやく海に、浜辺に辿り着く二人。
その後何が起こったかのかは実際に観てみてください。
まとめ
「ガタガタ言わずに観るんだよ!」というくらいオススメな作品です。
エンディングは正に感無量、悲しさと優しさと明るさが同時に混在するような不思議な感覚に触れることでしょう。
脚本、演出、演技、テンポの良さ、どれを取っても非常に高い完成度です。
死んだら終わりなのか、そうではないのか、、こればかりは僕らには分からない問いではあります。
しかし天国の扉をくぐった時に仲間外れにならないように、死んだ後も楽しく過ごせるように行動を起こす。
爽やかな後味の後に、何かが心に残る名作だと思います。
オススメです。
ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。