ボーダーライン


(原題:Sicario)
2015年/アメリカ
上映時間:121分
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
キャスト:エミリー・ブラント/ベニチオ・デル・トロ/ジョシュ・ブローリン/ヴィクター・ガーバー/ジョン・バーンサル/ダニエル・カルーヤ/他

 




 

アメリカ-メキシコの国境付近で繰り広げられる、麻薬戦争を描いたクライム・サスペンス。

観れば分かりますが、久しぶりに邦題がしっくりハマる映画ですな。

配給会社グッジョブ。

 

我々日本人からすれば、対岸の火事のような「麻薬戦争」という問題を極限まで生々しく描き、ずっっっっっしりと重量を感じられる作品です。

その監督を務めるは、着々と実績を重ね「ブレードランナー2049」でも監督に抜擢されたドゥニ・ヴィルヌーヴ氏。

そして撮影監督を務めたのが13度ものノミネートの末に、同じく「ブレードランナー2049」でアカデミー賞に輝いたロジャー・ディーキンス氏。

 

さらに数々の映画賞へのノミネートで注目を浴びるエミリー・ブラントを主演に迎え、超がつくほどにいぶし銀な俳優ベニチオ・デル・トロとジョシュ・ブローリンが脇を支える完璧な布陣。

「大人の週末」に掲載されたお店へ行く時のワクワク感のような。

いざ食べたらとても美味しかった満足感のような。

期待を裏切らない、予想を上回る素晴らしい映画でした。

 

 

 

さっくりあらすじ

アリゾナ州・チャンドラーで、FBI捜査官・ケイトが率いるチームは誘拐事件の容疑者宅へと、強制捜査に踏み切った。

容疑者を制圧し家屋を捜索すると、壁の中から多数の遺体を発見するが、仕掛けられた爆弾により2名の捜査官が犠牲となった。

ケイトは上司に推薦され、国防総省のマットが率いるチームに参加し、誘拐事件の主犯と思われる麻薬カルテルの親玉マニュエル・ディアスの捜査に当たることになる。

メキシコ国境沿いの都市・エルパソに移ると、謎のコロンビア人・アレハンドロも合流し、一同は国境を越えメキシコへと向かうのだが、、、

 

 

 

 

FBI捜査官・ケイト
国防総省にスカウトされ、メキシコへ

 

国防総省の顧問を自称する男・マット
どこか怪しい雰囲気が漂う

 

謎の男・アレハンドロ
国防総省に協力する真意とは、、

 

 

 

 

 

ボーダーライン

と銘打たれた邦題は読んで字の如し、映画の本質を表しています。

 

麻薬に関わる事件でありながらも、蔓延る遺体の処理や、掴めそうもない黒幕の存在など、フラストレーションが溜まっているFBI捜査官・ケイト。

そんな彼女が国防総省の要請に応え、麻薬カルテルの捜査に向かうことで物語は動き始めます。

あくまでサスペンス映画ではありますが、工夫されたカメラワークはどこかドキュメンタリー調にも感じられ、独特の雰囲気を醸し出しています。

 

国境を越え、メキシコに向かえば目に入る退廃的な空気、そして吊り下げられた死体の数々。

それは法の支配が及ばず、暴力こそが世を支配する現実を表し、警察ですら信用に値しないということ。

麻薬カルテルが街を牛耳る、メキシコの現状がヒシヒシと伝わってきますね。

何が起きるのか予想がつかない緊張感は神経を摩耗させ、邪魔者は容赦なく殺す国防総省のやり方はどうも理解し難いもの。

ケイト本人もさることながら、観てるこっち側もどっぷり疲れます。

 

 

そして、本題となる「ボーダーライン」ですが、”国境”を表すと共に、善と悪の”境界線”も表しています。

国防総省の顧問を自称する胡散臭いマットと、彼の相棒となる謎の男・アレハンドロ。

彼らはカルテル撲滅という目標に対し、何の躊躇いもなく”超”法規的な捜査を次々と行います。

 

端的に言えば、犯人を捕まえるためには何の躊躇も無く、あらゆる強硬手段を行うということ。

必要であれば拷問も辞さず、必要があれば小さな悪は見逃し、捜査官として決められた手順を守ろうとするケイトはどんどん混乱していくわけですな。

 

マットはカルテルの行動を把握できる範囲になるまで弱体化させ、適度に泳がせることで恒久的な秩序を。

アレハンドロは過去に奪われた大事なものの為に、カルテルに対する復讐を。

互いに目的は違えど、利害は完全に一致しており、また何をしようと必ず達成させようとする覚悟があります。

悪を討つのは正義ではなく、より巨大な悪とも言えるわけですが、このあたりの倫理観が最大の見どころと言えるでしょう。

 

 

ちなみに原題の”SICARIO”は”暗殺者”を意味します。

つまり原題の方に則れば、とある目的のために暗躍するアレハンドロの方が主人公ということになりますね。

常識と非常識の間で葛藤するケイトと、迷うことなく非常識を選ぶアレハンドロと。

どちらにもスポットが当たり、どちらも主人公とも言える構図バランスは極めて素晴らしく、様々な角度で物事を捕らえる演出は実に面白いものです。

 




 

まとめ

トータルで見れば、残虐な描写は少な目ではありますが、それでもお腹に響く重さのある映画です。

優秀であるはずの人間が”覚悟”を決めた人間の輪の中に入り、やりきれない未熟さに辟易する内容は実に淡々としたもので、人によっては味気ない印象にもなり得ます。

 

重たいテーマの作品にも関わらず、かなり淡白で味わい深い映画なので、個人的には上級者向けかなと。

麻薬カルテルの恐ろしさや、メキシコやコロンビアの現状が多少なり分かっていれば、極めて現実に近い世界を描いた秀作として楽しめるはずです。

 

オススメです。

ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。

 

 

 



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