(原題:Sid And Nancy)
1986年/イギリス
上映時間:112分
監督:アレックス・コックス
キャスト:ゲイリー・オールドマン/クロエ・ウェッブ/ドリュー・スコフィールド/デイヴィッド・ヘイマン/トニー・ロンドン/他
1975年に結成され、今なお記憶に残る伝説的パンクバンド「セックス・ピストルズ」の(2代目)ベーシストであるシド・ヴィシャスと、恋人であるナンシー・スパンゲンとの狂気的恋愛を描いたラブ・ストーリー。
曲は知らなくともセックス・ピストルズやシド・ヴィシャスの名前は耳にしたことも少なからずあるでしょう。
70年代のイギリスがかなり深刻な不景気に落ち込んでおり、職を得られず生活に希望を見いだせない若者でごった返した時代でした。
大人たちが敷いた不条理で不安しかない世の中で、湧き上がる世の中への苛立ちや不満を爆発させ、またその”憤怒”を表現するような無茶苦茶な歌詞を歌うピストルズは大きな支持を得たわけですな。
過激な詩の数々に奇抜なファッション、放送禁止用語の連発、ゲリラライブを開催しての逮捕などなど、、まさに「パンク」を体現するような彼らの存在。
その中でずば抜けた存在感を放ったシド・ヴィシャスという男。
そして彼を愛したナンシー・スパンゲンという女。
「パンクな生き様」とも評される彼らは何を糧に生きて、どう死んでいったのでしょうか?
さっくりあらすじ
シド・ヴィシャスは恋人のナンシー・スパンゲンを刺殺した容疑で警察署に拘留されていた。。
セックス・ピストルズで最も人気のあるシドは破壊的・破滅的な生き方を貫き、ある日にピストルズのボーカリスト・ロットンと共に友人の家を訪れ、ナンシーと出会う。
ナンシーは麻薬中毒でシドに麻薬を勧め、また最初こそ嘔吐していたシドも徐々に麻薬にハマり始め、薬物依存の疑いを持ったマネージャーのマルコムはシドを監視し始める。
シドとナンシーは結婚を決意するものの、ナンシーの母親はナンシーを煙たがり、ナンシーをツアーに連れて行くと言い出したシドに対しロットンは怒りを覚え、マルコムはシドに対し、ツアー参加の条件としてナンシーとの離縁を提案する。
一行はアメリカツアーに向かうも、ナンシーが忘れられない上に重度の薬物依存に陥ったシドに対しメンバーの怒りが爆発、ピストルズは解散し、一人ぼっちになったシドはナンシーの元へ戻ろうとするのだが、、、
シドとナンシー
演じるは
ゲイリー・オールドマンとクロエ・ウェッブ
こちらは本物
絵になる二人
ポスターとか欲しい
美しい愛か、痛いカップルか
もはや何と言えば良いのか。。
不安や葛藤や後悔から目を背けるために薬物に逃げ、逃げ回った先にある”二人の居場所”を描く、極めて美しくも幼稚な愛の物語。
ぶっちゃけ凡人には理解し難く、常軌を逸した二人の生き様にはピンと来るものはありません。
でも何て言うかね、、恥やプライドなんて関係なく、自分の心を剝き出しにして付き合えるパートナーというものには一抹の嫉妬を感じます。
要は度を越えた幸せそうなバカップルのお話なわけですが、彼らほどに自分の愛する人と深く繋がろうとした人はそう多くはないんじゃないでしょうか?
作品としては正直なところドキュメント以上で映画未満といったところ。
基本的には事実に忠実な脚本となっており、単にヘロイン中毒のカップルが堕落していく内容なので起伏も少なく、全体を通じてダルめな印象です。
まぁカルト的な人気を誇り、コアなファンが多い存在なので難しいところですが、下手に脚色するよりかは好感が持てますけどね。
それを差し引いても凡作かなぁ。。
しかしそんな作品を印象深く彩るのがシドを演じるゲイリー・オールドマンの存在。
「レオン」を筆頭に悪役の代名詞として有名なゲイリー氏ですが、本作における見どころは彼の演技です。
実際に本作での演技で若手俳優としての注目を浴びたわけですが、イカれてる演技をさせたら世界でも有数のレベルですよね。
どう見てもヘロイン中毒のジャンキーにしか見えないですもん(笑)
筆者もシド・ヴィシャス本人のことは詳しくないですが、幼稚で不器用、情けないところや弱い部分など、呆れるを通り越して哀れにすら思えてしまうような演技力は一見の価値ありです。
神がかり的な人気を誇り、今もなお伝説的な存在として知られるシド・ヴィシャスという人の脆く脆弱な内面を表現する役者として、彼ほどにしっくりくる演技ができる俳優が他にいるでしょうか?
ナンシーに関しては辛口な意見が多いようですな、特に容姿に関して。
個人的にはケバくてバカそうで、でも繊細そうで、と説得力を感じましたけどね。
本物のナンシーだって超絶美人とまでは言えないと思いますが、というかそもそも美女と美男子の話でもないし、、そんなもんを観る作品じゃないぞぇ?
まとめ
短い人生を生きた2人を美化するでもなく、卑下するでもなく、ありのままに彼らの軌跡を描いた作品です。
究極にロマンチックな愛の映画とも言えますし、ダメ人間の堕落を描いた映画とも言えます。
シドもナンシーも互いを愛し合っていたようにも見えるし、ただ単に互いの傷を舐め合って佇んでいたようにも見えるからです。
この辺の匙加減は観る人次第だと思いますし、薬物で堕ちていくだけの内容なので常識ある人からすれば意味不明な連中に映ることは間違いありません。
ついでに、何の予備知識も無いと高確率で「駄作」になります。
鑑賞するにあたり、まずはシド・ヴィシャスという人物がどんな生き方をして、どう死んでいったのかを予習しましょう。
ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。