(原題:I rymden finns inga kanslor)
2010年/スウェーデン
上映時間:86分
監督/脚本:アンドレアス・エーマン
キャスト:ビル・スカルスガルド/マルティン・バルストロム/セシリア・フォルス/ソフィ・ハミルトン/ロッタ・テイレ/他
日本で有名な俳優がいないせいか、商業的な理由であまり流通しないスウェーデンの映画たち。
もちろんピンキリはあるものの、総じてクォリティが高めで面白い人間ドラマやユーモアを感じさせます。
いや、本当スウェーデンの映画って面白いの多いんですよ。
全く聞き取れませんがスウェーデン語独特の響きと、北欧の雰囲気ならではの心に染みる優しさが胸を打ちます。
日本の映画界のように売れた漫画の人気に便乗し、旬のタレントの展覧会のようなことしかできない人達には、そうそう作れないであろう魅力があるんです。
さっくりあらすじ
物理学とSFを好み、嫌なことがあると自分だけのロケットに閉じこもり、頭の中の宇宙へと旅立ってしまうシモン。
そんな彼を唯一理解できる兄のサムだったが、恋人とシモンの共同生活は失敗し、振られてしまうことに。
恋人を失い、ひどく落ち込むサム。
そんな兄のせいで自分の生活が乱れることを危惧したシモンは、兄に新しい彼女ができれば生活も元通りになると思いつく。
そして兄の好みを研究し、新しい彼女候補を探しに行くのだが、、、
シモンのロケット(ドラム缶?)
一度入ると出てこない
兄のカスタムスクーターで出社
シモンは時間の乱れを何より嫌う
やっと見つけた(兄の)彼女候補のイェニファー
でもシモンに触ると、、、
素朴な暖かさ
ポップで色鮮やかな映像に、コミカルで洒落たグラフィックアートを重ねた独特の演出は非常に素晴らしい。
本来なら少し重苦しくなるような展開も思わずニッコリしてしまうような、笑いごとになってしまうような不思議な魅力に溢れています。
シモンは他人の感情が理解できず、精神的にも肉体的にも距離をとることで冷静を保っています。
嫌なことがあったりすると宇宙ロケット(ドラム缶)の中に閉じこもり、妄想の中の銀河へと旅立ってしまうため手に負えません。
唯一シモンが心を開く兄のサムは優しく思いやりのある男ですが、毎日のように積み重なるシモンと恋人フリーダの板挟みに少し疲れ気味。
弟に対しても全面的に理解しているというわけでもなく、時として苛立ちや不満も見え隠れします。
でも兄弟揃ってメロドラマよりもスターウォーズを好んだり、兄弟として好みは合っている模様。
不満が爆発し、フリーダが激高してシモンに掴みかかった際は「弟に触るな!」と怒鳴ったりするあたりが漢気があってカッコいいっす。
頼れる兄ちゃんです。
しかしながら人の心はそう単純なものではありません。
フリーダを失ってからというものの、弟の感情や行動を心から理解してあげようと思うほどサムには余裕がありません。
自分のこと、シモンのこと、将来のこと、、このあたりの葛藤は現実的で、障害者の肉親という視点は考えさせられるものがありました。
シモンは興味があるものと兄に対しての愛情はものすごくまっすぐです。
だからこそ、サムもその愛情に値するだけの愛情を返すわけですが、サムの常識とシモンの常識があまりにかけ離れているため誤解が生まれてしまいます。
自分がつらい時、悲しい時の気持ちを理解してもらえいないことがどれだけ苦しいものなのか。
でもね、これは別にアスペルガー云々の問題ではなくて、日常的に僕らの生活でも十分あり得る話ですよね。
好きな人の感情が理解できず、誤解されたり怒らせたり、そんな経験は誰にでもあるものでしょう。
サムと仲良くしたいシモンも、シモンと仲良くしたいイェニファーも、誤解をものともせず前に突き進みます。
相手に怒られたり嫌がられたりしたら、相手の気持ちを想うこと。
他人と仲良くすると基本中の基本ですが、ついつい忘れがちな人との接し方。
それを忘れないことが良好な人間関係の第一歩ですね、きっと。
まとめ
表面的ではありますが、聞いたことあるけどよく知らないアスペルガー症候群。
そんな障害に対する理解と、健常者も障害者も同様に頭を悩ませるという現実に触れる良い機会かと思います。
感動的な演出と映像の中スパっと終わる作品ですが、実際は散々兄ちゃんに迷惑かけた上、自分はちゃっかりガールフレンドをゲットしちゃうという斜め上なエンディング。
「これそんな手放しで喜んでいいのか?」という後味が本作のキモですな。
オススメです。
ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。
おまけ
本国スウェーデンでは障害者団体からの評判も概ね良いみたいですが、デリケートなテーマを扱うだけに、少なからずアンチな意見もあるようです。
でもね、障害に対する偏見も、障害者を守るための過剰な反応も、偏ってる点では似たようなもんです。
個人的な意見ではありますが、少なくとも本作を観終わって、アンチな人が言うような”あざとさ”は微塵も感じませんでしたよ。
障害を持つ方々に対する配慮は依然足りてない世の中ですが、反面「障害者」の烙印を押して、腫れ物に触るような扱いをされるのは当人にとって幸せなのか?
この映画が示すように、健常者も障害者も、互いの歩み寄りがもう少しできる世の中だといいですよね。