1996年/日本
上映時間:146分
監督/脚本:岩井俊二
キャスト:CHARA/伊藤歩/三上博史/江口洋介/渡部篤郎/山口智子/桃井かおり/大塚寧々/小橋健児/他
「Love Letter」や「PiCNiC」を手掛け、独特な映像美を追求する岩井俊二監督の知名度を大きく上げた作品として、有名な映画です。
作中で描かれるYEN TOWN BAND、というかCHARAの楽曲の方が馴染みがあるかもしれません。
架空の日本という国、その中にある街を舞台に、多国籍な移民たちの生活を描いた作品は独特の世界観と造形美があり、個人的には岩井ワールドを一番分かりやすく演出した作品だと思っています。
ちなみに撮影のため、ロケ地も日本と海外を往復して難儀したそうな。
音楽性もさることながら独自の個性を発揮するCHARAと、そしてそれを囲む演技派な俳優たち。
キャスティングは非常にバランス良く、無個性が個性とも言える伊藤歩の存在感も光ります。
ぶっちゃけ映画としての面白さやエンターテイメントとしての魅力は賛否あるかなとは感じますが、役者の魅力を絶妙に引き出す手腕、美しい画を追求する姿勢は国内随一だと思います。
さっくりあらすじ
”円”が世界で一番強かった時代。
一攫千金を求めて日本にやって来る外国人は日本を円都(イェン・タウン)と呼び、日本人は移住してくる外国人労働者を円盗(イェン・タウン)と呼び差別した。
ある少女は娼婦だった母が死んでしまい、行き場を失ってしまう。
母と繋がりのあった大人たちは無責任に少女を押し付け合い、少女は一攫千金を夢見て、上海からやって来た娼婦グリコの元へと引き取られた。
グリコは少女に”アゲハ”と名付け、少女は円盗と共に暮らし始めることになる。
そんなある日、グリコの客であるヤクザがアゲハを強姦しようと手を出し、誤ってヤクザを殺してしまう。
そしてヤクザの死体から一万円札の磁気データが記録されたテープを発見するのだが、、、
貧民街で暮らす円盗たち
彼らが営む何でも屋”あおぞら”
こいつ好き
各俳優の魅力
20年も前の作品なので、映画についてはもはや語りつくされたと言っても差し支えないでしょう。
架空の日本が舞台なわけですが、非常に多国籍でスラム化が著しい場所ではあります。
酒、ドラッグ、娼婦。
非現実的ながらもどこか懐かしささえ感じさせるような演出は素晴らしく、そこを根城にする人間たちも皆一様におかしく、雑多な場所で刹那的に生きる人間の儚さが描かれています。
実際に映画としては粗削り感が否めないですし、日本映画特有の間の長いカットが多いのも個人的にはマイナス。
しかしそれを補って余りある、退廃的な透明感を感じさせる映像美は一見の価値ありでしょう。
伊藤歩は当時16歳、筆者と同世代の女優さんで、地味な顔と田舎臭さがマジでハマり役(褒め言葉)
まだ稚拙で幼い演技ではありますが、このオドオドした感じ、内なる強さを秘めた魅力はアゲハという存在にピッタリだったように感じます。
世間がアイドルグループ「SPEED」でもちきりだったあの頃、伊藤歩が好きだった筆者。
少数派でマニアックな人格はあの時にもう完成されていたようです(笑)
次いでCHARA演じるグリコ。
下品なエロス(褒め言葉)を身にまとった娼婦として、それが美しく花開いた歌手として、これまた彼女以上の適任はいなかったでしょう。
彼女が歌う「Swallowtale Butterfly」は今でも名曲として有名で、なんとなく聞いたことある人もたくさんいるでしょう。
ポジション的には準主役なはずですが、その存在感はアゲハを遥かに上回ってしまっているのが個人的に悲しいところ。
そしてグリコの彼氏的存在であるフェイホン、演じるは三上博史。
その刹那的な生き方と考え方がカッコ良くて、少年だった筆者の心に影響を与えた人物でもあります。
大人になった今では、汚いしバカだし、、とても憧れるような人ではないんですが、その不器用な愛し方と優しさは今でも胸の奥に刻んであるつもりです。
天国の話は今聞いても良い話だなと感じますし、将来子供に伝えてあげたいと思うほどです。
「孔雀王(1988)」を観てから好きな日本人俳優として憧れを持っていますが、舞台とかドラマ中心であまり見かけないのが残念です。
基本的にはこの3人を中心に話は進んでいきます。
特に、グリコが幸せになるために歌を歌ってほしいフェイホンと、フェイホンに喜んでほしいから歌うグリコの切ない愛情の交差は本作で一番の涙腺ポイントでしょう。
筆者的には何とも思いませんが、悲しいラブストーリーが好物の人は間違いなく泣けると思います。
その他の人物も今現在も活躍する俳優ばかりで、今考えてみれば相当に贅沢なキャスティングだと言えるでしょう。
山口智子はメチャクチャ可愛いし、渡部篤郎はすごくカッコいい。
出番は少なめですが、代名詞とも言えるロン毛の江口洋介も素敵です。
まとめ
色々な人物の描写が細かく挟まるので難解に感じますが、要は「身寄りの無い子供が己の生き方を見つけるお話」で大体合ってると思います。
”おしゃれ映画”として評判が良いようですが、別にお洒落ではないし、、そこまで薄っぺらい映画でもないし、、、
とはいえ芯のある骨太な映画かといえばそうでもなく、岩井監督の作品はストーリー性よりも映像の流れを重視するので、好き嫌いが分かれるのだけは注意しておきましょう。
どこにフォーカスして観るかによって深さが変わる作品とも言え、現在のように多くの外国人が来日して爆買いする時代に観るとまた感慨深いものがあるかもしれません。
ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。