
(原題:The Last Word)
2017年/アメリカ
上映時間:108分
監督:マーク・ぺリントン
キャスト:シャーリー・マクレーン/アマンダ・セイフリッド/アンジュエル・リー・ディクソン/エリザベス/ロナルド・オドム/他
孤独に苛まれる死にゆく女性と、新聞の訃報記事を専門に書く女性ライターとのやり取りを描いたコメディ・ドラマ。
ダンサーからオスカー女優へと昇りつめた大御所シャーリー・マクレーンと、「マンマ・ミーア」で舞い降りた天使ことアマンダ・セイフリッドの掛け合いが見所です。
訃報記事、日本ではお悔やみ記事とも呼ぶそうですが、普段から新聞紙を読む習慣の無い我々にはあまり馴染みのあるものではないですね。
せいぜいヤフーニュースで著名人の訃報を知るくらいで、それも日時と病名を簡潔に記す程度のものがほとんどでしょう。
実際に欧米では各新聞社に死亡記事部という部局があるそうで、故人の評価を改めて見直す機会との見識があるようです。
さっくりあらすじ
広告業界で成功を収めた女傑・ハリエットは引退後、悠々自適な毎日を送っているが、その傲慢で神経質な気質は変わらずにいた。
しかし余命がそう長くないことを悟った彼女は、自分が成し遂げた偉業を世に残そうと考え、多額の出資をしていた新聞社で働く若い記者・アンに記事を書くように強要する。
渋々ながらも記事を書くことになったアンはハリエットを知る人物に取材に出るものの、誰一人として彼女を良くいう者が出てこない。
訃報記事として書くことが見当たらないことに困惑するアンに対し、ハリエットは偉大な訃報を作るためにアイデアを提案するのだが、、、
何の脈絡も無く
訃報記事を書くよう命令される
知人に取材するも
出てくるのは悪口ばかり
記事の出来栄えに納得いかず
再筆するよう強要するが、、
信念と思いやり
偏屈な人物が周りの人に支えられ、優しさを取り戻す。
こういった内容の映画は数多くあるものですが、大体の場合がそこまで偏屈な人じゃないんですよね。
本作も同じで、観てみて最初に思うのは、言うほどに女傑・ハリエットさんが悪い人ではないという点。
傲慢で上から目線で、お世辞にも良い人とは言い難い女性ではありますが、かと言って決して悪い人でもなく脚本的なパンチの弱さを感じます。
というか、本当に偏屈で嫌われる人物になると、救いの無い惨めな人生になるのが現実ということなんでしょう。
演じるシャーリー・マクレーンが醸し出す迫力が無ければ、平凡な映画になり得たかもしれない危うさを感じます。
また、そんなハリエットとやり合う若手記者のアンもまた然り。
類稀なる美貌を隠しきれていないアマンダ・セイフリッドの演技力は疑う余地も無いですが、彼女のビジュアルと劇中で描かれる生活感が微妙にマッチしておらず、演出的なチグハグさに若干の違和感があります。
総じてシャーリー・マクレーンとアマンダ・セイフリッドという二大女優におんぶに抱っこという感じで、作品そのものの完成度が高いって感じでもないですかね。
物語としては、女性軽視の時代に広告業界の女王となったものの、老後を過ごす現在では空虚な日々を送る女性が中心となります。
このババアの嫌味っぷりが良い意味で笑えるエッセンスであり、やや大げさなユーモアではあるものの、どこか共感できる絶妙なバランスが素敵ですな。
邪険に扱われる美容師。
恫喝に怯える家政婦。
全く信用されていない医者。
ボロクソに文句を言われた神父。
そしてバカだクズだと罵られた元夫などなど、ハリエットという女性の内面を紹介するエピソードが全てコミカルなものであり、苦笑いと共に彼女の人格が掴めていきます。
そんな彼女が、弱小新聞社の記者に目をつけたことから物語は動き始めます。
どんなに嫌われている人物でも感動的な訃報記事に仕上げるアンの手腕を見込み、エゴの塊のような自分の望みを押し付けるわけですな。
で、最初こそ嫌々仕事をこなし、ババア相手にやる気スイッチが入らないアンですが、彼女の性格が掴めていくに連れ徐々に真摯に取り組むようになります。
このあたりから評価が一変し、クソババアではなく信念を曲げることを知らないだけの、知的でタフな女性だということが判明してくるわけで。
妥協を知らない女性だからこそ、疎まれ嫌われる。
それでも彼女の言うことに悪意があるわけでなく、成功した自分流の生き方を見習わない弱虫を見下しているだけということが分かってきます。
まぁ、、それはそれでどうかとは思いますが、自分の考え方が通用しそうな少女を見つけてからの彼女を見て、ようやく見えてくる彼女の人柄に奇妙な優しさを覚えます。
そして終盤、お酒を飲みつつダンスに興じ、ふとストールを持って何かを取りに行くハリエット。
仕事を除けば何も持っていなかった彼女が、最後に手にした思い出と、才能を見出した子供にハリエット節での激励の手紙にはうっかり感動しちゃいましたよ。
まとめ
とにかく威厳が溢れるシャーリー・マクレーンと、仏頂面が溢れるアマンダ・セイフリッドの対比が面白く、本当にこの2人だけで成り立っている映画と言っても過言ではありません。
特別素晴らしい映画とまでは言いませんが、観て感動できるような魅力と、観て何かを得る内容はある作品だと思います。
テンポ良く進む構成は心地よく、そこかしこに散りばめられたユーモアも面白く、なかなかの佳作ですかね。
ゆったりした雰囲気のドラマとして、観て損の無い映画です。
ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。