The Wave


(原題:DIE WELLE)
2008年/ドイツ
上映時間:108分
監督:デニス・ガンゼル
キャスト:ユルゲン・フォーゲル/フレデリック・ラウ/マックス・リーメルト/ジェニファー・ウルリッヒ/ヤコブ・マッチェンツ/他

 




 

ファシズムとマインドコントロールをテーマに、過去に実際に起きた事件を元にした過激思想のノンフィクション・サスペンス。

元ネタは1969年にアメリカの高校で行われたゲーム的なノリの授業であり、積極的に参加しようとした思春期な生徒たちが我を忘れて暴力的になったという事件。

要は多感で気難しい年頃の高校生が、ナチスを模したようなマインドコントロールに洗脳されてしまったというお話ですな。

しゃかりきに自由を求める青春時代のはずなのに、進んで統制を求めるようになるというのはまさしく正反対の思想であり、協調性や集団生活という”全体主義”の危険な側面が垣間見えます。

 

 

 

さっくりあらすじ

高校の体育教師・ヴェンゲルは特別授業週間に独裁政治について学ぶクラスを受け持つことになる。

若く活発で、生徒からも人気のあるヴェンゲルは授業を通して”独裁”という概念を体験させようと、自身を指導者と位置づけ独裁制を実践することになった。

最初こそ嫌悪感を抱く生徒が多かったものの、やがて”制服”と称して白シャツを着るようになり、グループのロゴを作り団結力は高まっていく。

そして未経験の一体感に包まれた生徒達は自らを「ウェイヴ」と名乗るようになり、攻撃的になっていくのだが、、、

 

 

 

教師・ベンガーを”指導者”として、
独裁制を実践してみることに

 

最初は遊び半分、ふざけ半分で楽しむ生徒達

 

たった5日で洗脳完了

 

 

 

 

無邪気さと連帯感

知っているようでよく分からない「ファシズム」という言葉ですが、「極右の国家主義及び全体主義的政治形態」のことを指すようです。

うん、イミワカンナイネ。

 

ちょっとだけ真面目な話をすると、「自由」と「平等」は相反する概念であり、これを両方成立させるということは理論上は不可能なものであるわけです。

政治経済の上では「自由」とは資本主義的な考え方であり、対して「平等」とは共産主義(社会主義)的な考え方となります。

 

で、共産主義とは個人ができるだけ頑張った上で、その対価を欲しい分だけ受け取れるという理想的な思想であり、実際には極めて実現の難しい社会体系と言えます。

で、この理想的な社会を実現させるため、財産や労働力を国が一時的に管理しようとする理念が社会主義で、歴史上ではこの段階で国が破綻してきたわけで。

 

この前提の上でファシズムとは、国家による富の掌握と平等な還元による格差無き社会を実現することを目標とし、また国が潤うことが国民の幸福に繋がるという思想のことを指すわけですな。

ここまでだと非常に耳触りの良い思想に聞こえますが、結局は一部の富裕層だけが得をしてきた歴史があるわけで。

近年は「企業ファシズム」なんて言葉もあるそうですし、給料は変わらないけれども企業利益は伸びまくってる会社にお勤めの方には分かりやすい話ではないでしょうか。

※筆者の貧しい知識内での見解なので間違ってたらごめんなさい。

 

 

話が逸れました。

「そんな独裁制を体験してみよう!」というのが本作の大まかな流れとなりますが、観た感想としてはファシズムはあくまできっかけであって、個人的にな印象としては、どちらかと言えばカルト宗教とかに近いようにも思います。

様々な情報に触れられる現代社会ではカルト宗教も社会主義的思想も似たようなもんですが、共通しているのは集団心理と連帯意識が悪い方に向かうととんでもないことになるよ、ということ。

 

ゲーム感覚とは言え、授業の一環として始めた厳格な規則、揃っての行進や統一された衣装、そして信頼できる仲間同士だからこそ生まれる安心感と連帯感。

それは裏返せば、先生に対する挨拶の仕方、綺麗に列を作る体育の練習、学校指定の制服と、嫌味な見方をすればどこの国でもやっている学校教育にも似ているように感じます。

ぶっちゃけ色々な意見が交錯する現代のネット社会では、いくら子供とはいえ、ここまでのめり込むような無知な学生は少数派だとは思いますし、本作が語る危険性を日本の教育に重ねるのはさすがに無理がありますがね。

 

むしろ個人的に畏怖するのは教師のベンゲルの方。

独裁制の指導者として崇拝される立場になったベンゲルも決してまんざらでもなく、その姿勢に口を出した妻と口論になるシーンがありますが、これが怖いよね。

「立場が人を作る」なんて言葉もありますが、全体主義に染まっていく生徒たちに祭り上げられ、最終的に大人であるベンゲル自体にも洗脳がかかっていたことは何とも生々しく現実的に思えます。

 

独裁制を導くはずが、自分がどっぷり独裁制に染まっていたという展開は恐ろしくも非常に興味深く印象深いものでした。

更に言えば独裁政治の実践を通じて完成した連帯感は差別意識を無くし、生徒間での絆になるという展開もあり、一概に独裁政治=悪と断定できないあたりもまた現実的で否定しづらいところですな。

学級崩壊や教員に対する暴力などがニュースで取り上げられる時代だからこそ、集団がひとつになるための思想の統一という手段のメリット、その陰に潜む危険性は考えさせられるものがあります。

 




 

まとめ

独裁制の是非を問うような難しいテーマを背景にした作品として、生徒たちの視点、教師としての視点、その両方から漂ってくる狂気は一見の価値ありです。

似たような心理的狂気を描いた作品としては「es」の方が面白かったような気がしますが、これはこれで十分に楽しめる作品だと思います。

 

適切な社会性・協調性は凝り固まった価値観・思想と似ているものであり、その隙間で生きる我々は良くも悪くもバラバラな考え方をするわけで、これほど観る視点によって感想がコロコロ変わる映画も珍しいかなと。

ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。



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