アド・アストラ


(原題:Ad Astra)
2019年/アメリカ
上映時間:123分
監督:ジェームズ・グレイ
キャスト:ブラッド・ピット/トミー・リー・ジョーンズ/ルース・ネッガ/リヴ・タイラー/ドナルド・サザーランド/他

 




 

ブラッド・ピット主演、製作プロデューサーも兼ねた近未来SFサスペンス。

海外の批評家の間では大絶賛され「最高傑作」やら「ブラピ史上最高の演技」やらと、とにかく高い評価を受けている様です。

 

SFサスペンスとは言ったものの、個人的には宇宙を背景に1人の男の悲哀や苦悩を描いたドラマだったと思いますし、サスペンス性やスリラー性を求めると空振りになること間違いなし。

決してつまらない作品ではないですが「何か思ってたんと違う」感は最後まで拭えませんでした。

それを差し引いても、それなりに興味深い映画ではありましたが。

 

 

 

 

さっくりあらすじ

伝説の宇宙飛行士クリフォード・マクブライドの息子であるロイも優秀な宇宙飛行士となったが、家庭を顧みないままに宇宙探査で失踪した父の影響で他者と懇意な関係を築くことができず、妻のイヴとも離婚していた。

そんなある日にロイが軌道施設の作業をしている際にサージ電流に飲まれ、ロイは何とか生き延びるも世界中で4万人もの犠牲者が出てしまう。

アメリカ宇宙軍に召喚されたロイは16年前に連絡を絶った宇宙探査船”リマ”から発せられたものだと伝えられ、リマの責任者であるクリフォードの生存が示唆されることになる。

海王星付近にいるはずの父へ向け、ロイはコンタクトを取るように要請されるのだが、、、

 

 

 

 

宇宙飛行士のロイ少佐
ボッチ体質で孤独な男

 

近未来の地球
軌道アンテナが完成している

 

月面には大規模な施設も建造
しかし資源を巡る争うは続く

 

 

 

 

 

ロイの独白

サスペンス風味な味付けはしてあるものの、物語の大半は孤独な男・ロイの心情を描くことに費やされています。

言ってみれば間違いなくヒューマン・ドラマのカテゴリであり、むしろサスペンス・スリラーとしての魅力は無いと言っても良いかもしれません。

「何故に父は消息を絶ったのか?」とか「何故に地球に危機が迫っているのか?」とか、「どうやって危機を乗り越えていくのか」などを期待していると、むしろ退屈な作品にさえなり得ます。

宇宙探査という壮大な背景に描かれる孤独な男の心情吐露と思えば、ここまで思い切りの良いコントラストは珍しい気もしますが。

 

そんな物語の中心となるのが、16年前に通信が途絶えた父を探しに行くロイの心の変化。

他者との関りを極力減らす、つまり自分の感情を押し殺すことで優秀な宇宙飛行士になった男の感情が描かれる作品だと言って良いでしょう。

ある意味で哲学的とも言える繊細な描写の数々は実に玄人好みな内容であり、万人受けするものではないと個人的には思います。

つまりはエンタメ映画ではなく、芸術映画の方が近いかもしれません。

 

 

特徴的なのが、全編を通じて極めて美しく、静かに描かれる映像美。

地上から天高くそびえるアンテナの壮大さ、殺風景で白い月面の広さ、あまりよく知らない海王星の神秘的な姿などなど、宇宙のロマンをそのまま落とし込んだ映像表現は凄いの一言です。

飛行機のノリで宇宙船に乗れるようになった未来は実に魅力的なものですし、月面旅行が実現したらこんな感じなんだろうというユニークな説得力があります。

 

宇宙は広く、でも人間のコミュニティは狭く、音の無い環境を描くことで観ている側に伝わってくる孤独感も実に印象に残ります。

外にばかり目を向ける父と、内に目を向けられなくなった息子と、ある意味で似た者同士な2人の孤独といったな側面もあるかもしれません。

その上で、真っ暗で誰もいない空間=宇宙という怖さや寂しさ、不気味さなどは嫌というほどに伝わってきますし、ロイが己を見つめなおすことで平静を保とうとする描写も良く分かります。

それ故にマイナス面も悪目立ちしてしまいますが。。

 

 

そのマイナス面としては、父と息子の関係を語る場面が極めて少ないところ。

親子の確執を描く過去の描写はあれど全く足りているとは言い難く、何故にそこまで父に拘るのかの説得力に欠けています。

さらに言えば月面での戦闘や宇宙猿の襲撃など、本編と関係の無いシーンもチラホラと見受けられ、映画としてのまとまりに欠けるのも難点か。

 

無駄なエピソードに尺を使うのであれば、もっと親子の過去にフォーカスするべきでしたし、どこかチグハグ感が否めません。

さらに言えば、せっかくの映像美に反して、科学的な演出は相当に雑な仕上がり。

後半に行けば行くほど顕著になるもので、終わってみればトンデモ映画だったようにも見えますし、積み重なった違和感が映画の感動を上回ってしまうのが最大の問題点となるでしょう。

 

 




 

 

まとめ

何と言うか、勿体ない作品ですな。

全体的に作りが雑で、物語の背景もキャストも、全て活かせたとは到底言えない内容じゃないでしょうか。

 

ドラマにフォーカスしすぎてサスペンス性を失い、急遽取ってつけたようなスリラーを足したような印象ですし、作り手のイメージがまとまっていない事だけは良く分かります。

映画とは本当に難しいものだなと感じる一方で、本作に高い評価を下した評論家はどこに面白さを感じたのだろうかと疑問に感じる始末ですわ。

 

うーん、見せ場が無いわけではないけど、率直に面白くはないかなぁ。

良ければ一度ご鑑賞くださいませ。



ブログランキング参加してみました。
良ければポチっと押しちゃってください。