(原題:American Made)
2017年/アメリカ
上映時間:117分
監督:ダグ・リーマン
キャスト:トム・クルーズ/ドーナル・グリーソン/サラ・ライト/ジェシー・プレモンス/ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ/ローラ・カーク/他
アメリカ航空会社のパイロットが麻薬密輸業に手を出し、後にDEA(麻薬取締局)の情報提供者となった姿を描く伝記的クライム・ドラマ。
”バリー・シール”ことアドラー・べリマン・シールという実在した人物を描いた物語ですが、これが面白かったんですわ。
CIAやDEAの監視を受け、尚且つ中南米の麻薬カルテルに睨まれ、その隙間をぬって莫大な金を稼ぐ姿には何とも言えないロマンがあります。
とても使いきれないほどの大金を持つという誰もが夢見るハッピーな生活と、超がつくほどのリスキーな人生と。
破天荒で波乱万丈な男の実話をエンタメとして仕上げた、なかなかの傑作だと思います。
さっくりあらすじ
大手航空会社のパイロットを務めるバリー・シールは卓越した航空技術を持ち、そんな彼の元にCIAのシェイファーと名乗る男がスカウトにやって来た。
シェイファーは情勢が不安定な中南米の国で上空から偵察写真を撮ること、見返りとして最新技術が搭載された航空機を贈呈することを告げ、バリーはこれを快諾する。
会社を辞めたバリーは毎日の様に航空機を飛ばしては写真を撮り、CIAに提供するようになった。
そんなある日、コロンビアで巨大麻薬カルテルと知り合い、麻薬密輸の仕事を持ちかけられるのだが、、、
CIAの依頼を受けるバリー
カルテルの依頼を受けるバリー
そして綱渡りの人生に
良識的な悪党
「アメリカをはめた男」という副題がついていますが、観た感想としては「紆余曲折してアメリカに捨てられた男」といった感じ。
合衆国政府に協力しつつも、しっかりと私腹を肥やし、政治的な境界線を見誤ったが故に殺された男の動乱と悲哀を描いた物語ですな。
クライム・サスペンス風な味付けにも関わらず割とポップで明るい作風であり、悲壮感は感じづらいのが特徴的か。
何というか、年配の方に「昔こんなすげぇ悪党がいたんだぜ」と語られているような気分にもなり、飲み屋で聞いてたら面白かったような感覚に近いです。
良くも悪くも80年代という時代が垣間見え、こんな嘘みたいな本当の話は面白いものですな。
トム・クルーズ=イーサン・ハントというイメージが付きまとうものですが、本当に彼のカメレオンぷりには驚かされます。
完全無欠で命知らずのスパイから遠く離れ、何とも泥臭く、それでいて肝が太い小悪党を完璧に演じ切っていますね。
CIAと麻薬カルテルという、どっちにしろ関わってはいけなさそうな組織を相手に立ち回る姿は感心するべきか、呆れるべきか。
卓越した操縦技術があるだけで普通の人間であり、悪党ではあるものの人並みに狼狽えたり怯えたりする姿には思わず苦笑い。
特に言葉の壁や文化の壁もあり、何をしてくるか分からない人を相手にビクビク接するトム様の演技はかなり笑えます。
その割にはいざ移動中に国境警備の飛行機に追いかけられようが、そこは極めて冷静に航空の知識を武器に対抗すると。
普通に働いていたら決して手にできない大金を得て、普通にしてたら決して味わえないスリルを得て、徐々にスリルに取り込まれていく姿も興味深いものです。
総じてトム・クルーズの秀逸な演技力と、全体的に軽快なタッチの演出とが良く噛み合い、淡々とした明るい仕上がりにしたのも良い判断だと思います。
バリー・シールという実在した人物にフォーカスされた映画だけに、犯罪の部分以外にも印象的な部分があります。
最初はCIAの仕事を訝しげに思っていたバリーの妻も然り、また手に負えないアホな妻の親族も然り。
配偶者や親族との距離感を掴むことの大切さが、嫌というほどに伝わってきます。
愛する妻や兄弟姉妹が常識人とは限らず、劇中ではバリーほどの成功者を以てしても片付けられない問題が直面します。
最終的にはなるべくしてなる結末になってしまいますが、関わってはいけない人と関わるリスクが良く分かる、勉強になる映画でもあるんですな。
ついでに、本作を観ることで飛行機についての豆知識が得られたのも高評価。
知っているようで知らない飛行機のギアや重量のトリビアもあり、個人的にはそこも非常に興味深く面白いところでした。
まとめ
トム・クルーズの好演と、それを存分に生かす計算された演出と、テンポの良い構成も相まってよく完成された作品です。
ノンフィクションの映画なので、エンタメ作品に比べ若干盛り上がりに欠ける気もしますが、それを補って余りある魅力に溢れています。
悲劇的な物語であり、盛者必衰の意味を教えてくれる有難い物語です。
ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。