ブラックホーク・ダウン


(原題:Black Hawk Down)
2001年/アメリカ
上映時間:145分
監督:リドリー・スコット
キャスト:ジョシュ・ハートネット/ユアン・マクレガー/トム・サイズモア/エリック・バナ/オーランド・ブルーム/トム・ハーディ/他

 




 

1993年に、ソマリア民兵とアメリカ軍の間で起きた「モガディシュの戦闘」を描いた戦争ドラマ。

 

泥沼化したソマリア内戦と気候変動(干ばつ)により、30万人(諸説あり)以上が餓死したともいわれる出来事は国際的に大きな課題となっていました。

国際連合は食料供給を含む援助のため、平和維持活動のために軍事的な介入を決定。

その作戦の一端として、米国が単独でソマリア民兵のモハメッド・アイディード将軍と側近2名を捕えようとした一連の事件を描いた作品なわけですな。

 

これが本当に超骨太な映画でして、エンタメ的な作品とは大きくかけ離れているのでご注意を。

 

 

 

さっくりあらすじ

1992年、長きに渡る内戦によりソマリア全土で飢饉が発生し、強力な民兵軍を保持するアイディード将軍が首都・モガディシオを制圧する。

国際的な援助で運ばれた食料を奪い、敵対勢力に対し優位に立とうとする将軍に国際世論は反発し、アメリカ海兵隊2万人が派遣され一時的な秩序が取り戻された。

しかし1993年、海兵隊の撤退と共に将軍は国際平和維持軍に対し宣戦布告し、国連軍に攻撃を始める。

これに対し、将軍の拉致と治安回復のためアメリカの精鋭部隊デルタ・フォースが投入されるも、なかなか成果を出せずにアメリカ政府に焦りが見え始める。

そしてアイディード民兵の幹部たちによる会合を急襲するため、精鋭部隊は強襲ヘリ”ブラックホーク”に搭乗し、現地へと向かうのだが、、、

 

 

 

 

作戦開始
現地へと向かう精鋭部隊

 

しかし民間人の手により
急襲の情報は筒抜けに

 

圧倒的な数の民兵により
窮地に追い込まれていく

 

 

 

 

淡々とした残酷さ

30分くらいで終わるはずの急襲作戦が失敗し、市街地で泥沼の銃撃戦に晒されたアメリカ兵の姿が淡々と描かれます。

野生の獣を狙撃して夕飯の足しにしたり、上官の真似をして笑いを取ったり、TV番組にくぎ付けになったり。

そもそもは3週間でおわるはずの任務が、具体的な結果を残せないまま6週間経ってしまったことから物語は始まります。

 

本国から成果を問われピリピリムードな指揮官とは対照的に、下で働く兵士たちには弛緩した空気が流れ、何とも微笑ましい雰囲気なんですな。

しかし、焦りを隠せないアメリカ政府が強行作戦を展開することで物語は一変し、部下の嫌悪感を横目に極めて危険な作戦を実行することになります。

で、いざ作戦が開始され、大型のヘリで移動を開始した瞬間から極度の緊張状態が始まるわけで。

 

もう本当に息をつく暇も無いほどに凝縮された恐怖感は凄いですよ。

墜落するヘリに舞い上がる砂塵、そして止むことのない銃撃の嵐。

アメリカ兵1人を殺すために、ソマリア民兵が50人集まるような描写には目を背けたくなるような迫力があり、勇気を持って立ち上がる気持ちと、心が折れて諦める気持ちの天秤具合が揺さぶられます。

 

リアルで派手なガンアクションではありますが、呑気に楽しむことが許されない本物の説得力があります。

不利だと分かっていても命令に従う地上部隊。

終わらない銃撃に晒され続ける車両部隊。

ロケットランチャーに狙われ、墜落していくヘリ部隊。

歯痒さを感じながらも、冷静に情報を伝える指令ヘリ隊員。

そして最悪の市街戦に突入してしまったことに苦悩する司令官。

 

非常に登場人物が多い作品ですが、軍隊のシステムそのままに各々の苦悩や葛藤が描かれ、群像劇風に展開する作品構成は実に素晴らしい。

むしろ登場人物が多すぎて一度の鑑賞で全てを把握することは困難でもあり、それを踏まえた上で二度三度と観たくなる完成度がありますね。

 

 

アメリカ軍の作戦を描く作品なので、アメリカ寄りの心情になるのは仕方ないとして、それでもアメリカ万歳にならない演出も特徴的です。

結果論とはいえ、アメリカ兵の死者が18名に対し、ソマリア側は1000人以上が死亡したという現実があるわけで。

 

作戦が失敗したことで状況が変わり、現場からの脱出や仲間の救出のために戦うアメリカ兵。

対して、土足で入り込んできたアメリカ兵を殺すためだけに戦うソマリア兵。

この価値観はどう見ても絶対に交わることのできない思想の差異であり、また命の重さは平等ではないのだと改めて気づかされる内容でもあります。

「命は平等」だと綺麗ごとを謳うのは簡単ですが、この戦場に身を投げれば誰もが銃を持って撃ちまくることでしょう。

 

 




 

まとめ

「アメリカ万歳」な戦争映画ではなく、むしろ「アメリカがやっちまった」戦場を描いた映画です。

この純度、この密度は数ある戦争映画の中でもトップクラスだと思いますし、世界情勢の背景を知ればより興味深い作品になることでしょう。

 

ビジネス的な側面もあり、世界中アチコチの紛争に首を突っ込むアメリカですが、彼らが命を賭して戦う意味や意義は否定できるものではありません。

世界を監視し、不道徳な行いが当たり前にならない世界を作るのはこういった人々だからです。

 

こう言っては不謹慎ですが、すごく面白かったです。

ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。


 

 

 



ブログランキング参加してみました。
良ければポチっと押しちゃってください。