(原題:American Sniper)
2014年/アメリカ
上映時間:132分
監督:クリント・イーストウッド
キャスト:ブラッドリー・クーパー/シエナ・ミラー/マックス・チャールズ/ルーク・グライムス/カイル・ガルナー/サム・ジェーガー/他
アメリカでは”伝説の狙撃手”として英雄視され、イラクでは”ラマーディーの悪魔”と呼して恐れられた、クリストファー・スコット・カイルの著書を原作とした伝記映画。
大御所クリント・イーストウッドがメガホンを取り、かの戦争映画の金字塔「プライベート・ライアン」を抑え、戦争をテーマにした映画としては史上最高額の興行成績を記録した作品でもあります。
「愛国心と英雄」を描いた傑作なのか、それとも「戦争がもたらす被害」を描いた悲劇なのか。
好戦を支持するのか、はたまた反戦を支持する映画なのか。
どちらにも取れるし、どちらにも取れないという、正に人それぞれの視点で価値が変わる作品であり、”戦争”という現実を端的に表しているとも言える気がします。
さっくりあらすじ
父から猟銃の扱いを教わった少年クリス・カイルは、父の教えにより”狼”から群れを守る”牧羊犬”になることを決意する。
大人になったクリスは週末にロデオを楽しむ青年に成長したが、1998年に起きたアメリカ大使館連続爆破事件を目の当たりにし、30歳を目前にしてアメリカ海軍への入隊を決意した。
軍の中でクリスは頭角を現し、海軍特殊部隊”ネイビー・シールズ”に所属することになり、訓練生活の中で出会った女性・タヤと結婚することになる。
しかし幸せも束の間、結婚式当日、挙式の直後に派兵が決定したクリスはイラクへと向かうのだが、、、
狙撃手として味方を守るクリス
瓦礫の街で戦闘は続く
兵士だけが敵ではない
何と言えば良いか、、
決して戦争を美化した内容ではなく、かといって「戦争反対!!」を前面に掲げた作品でもなく、ただただ現実にある映像を主観で観ているような錯覚さえ覚えます。
それ故か、評論家や世論の間では保守派と強硬派が見事なまでに真っ二つに意見が分かれる評価であり、見方によってはどちらにも傾いてしまう絶妙なバランス感覚はイーストウッド監督の手腕が光ります。
さらに不謹慎ではありますが戦闘シーンも非常に見応えがあり、暗殺者的なイメージが強い”狙撃手”という存在が戦場でどう戦い、危険に対してどう対処しているかなど、非常に興味深い演出が多いのも特徴です。
ぶっちゃけて言えば、スナイパーってカッコいいんですよね。
本来は憧れて良いものなのか微妙なところですが、もし戦争に参加しなくてはならないのであればスナイパーになりたい、そんな感じ。
戦場の真っ只中では「善」や「悪」という概念は無く、ひたすらに任務と命令をこなす一人ひとりの兵士の姿が印象的。
その中で仲間を守るため、任務を遂行するため、女性でも子供でも”敵”という存在を撃ち続けたクリス・カイルは徐々に精神を蝕んでいきます。
戦地から戻り、爆撃も銃弾も無い平和な日常の中での彼は正に”異質”な存在であり、安息の地にいながらも落ち着くことのできない彼の姿は完璧に被害者そのもののように見えます。
本作のために、10キロ以上もの増量トレーニングを経て撮影に入ったブラッドリー・クーパーの演技は非常に素晴らしく、彼の態度や表情から終始伝わってくる緊張感は迫真のものです。
クリス・カイルという兵士が何のために戦い、何に怒りを覚え、どうして冷静を保てなくなっているのか。
淡々と描かれる戦場の世界で、彼に張り詰められていく緊張は観ているこっちもつらくなるほどで、戦場が彼にもたらしたものが垣間見えることでしょう。
彼が心を取り戻すきっかけを掴み、やっと妻や子供との日常に戻れそうな雰囲気の中で唐突に映画は終わります。
そして流れる、あまりにもあっさりとした葬儀のシーン、続くエンドクレジット。
国のために、仲間のために心をすり減らしながら戦った男の幕切れは異常なほどにあっけなく、彼の人生が終わった瞬間の衝撃は誰もが感じるはずです。
まとめ
戦争を描いた作品ではなく、クリス・カイルという人間を通して戦場を見たドキュメンタリーといった方が近いかもしれません。
それはあくまで冷静に、残酷に。
彼がどう生きて、どう戦い、どう感じたのかを深く描いた映画です。
感じ方は人それぞれだとは思いますが、これは観て欲しい作品として深く心に残ります。
R15指定だし、えげつないシーンも多いので万人に勧められる映画ではないと思いますが、これはぜひとも挑戦してほしい。
ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。