(原題:The Boss Baby)
2017年/アメリカ
上映時間:97分
監督:トム・マクグラス
キャスト:アレック・ボールドウィン/スティーヴ・ブシェミ/ジミー・キンメル/リサ・クドロー/トビー・マグワイア/コンラッド・ヴァーノン/他
2010年に絵本として出版された「あかちゃん社長がやってきた」を映画化した長編アニメーション。
愛情深く育てられた7歳の少年と、突然やって来たスーツ姿の赤ん坊が織りなすサスペンス・コメディといったところでしょうか。
極めてシュールでウィットに富んだユーモアの数々と、斬新で目新しい視覚効果の数々と、クセが強めで人を選ぶ作品かなとは思います。
しかしそれを補って余りあるアイデアの数々、構築されたコミカルな世界観は一見の価値ありです。
さっくりあらすじ
7歳の空想好きな少年、ティム・テンプルトンは「ワンワン株式会社」に努める両親の愛情を一身に受け、何不自由ない毎日を送っている。
ある日の朝、目を覚ますと黒いスーツに身を包み、サングラスをかけた赤ん坊がタクシーでティムの家にやって来た。
その赤ん坊が癇癪を起すたびに両親は振り回され、今まで受けていた愛情が全て赤ん坊に向かっていることにティムは疎外感を感じるようになる。
そんな折、両親が疲れ果て、眠りこけている間に赤ん坊が誰かと電話で話しているのを目撃する。
両親の愛情を取り戻すため、ティムは挙動のおかしい赤ん坊の証拠を手に入れようとするのだが、、、
7歳の少年・ティム
親の愛を受け満足な日々を送る
しかし赤ん坊が来たことで
生活が一変
様子のおかしい赤ん坊相手に
正体を突き止めようとするが、、
アク強めな世界観
先に言っておきますと、大人も子供も楽しめる、オールマイティな仕上がりにはなっております。
ベタでちょっと下品なギャグの数々は子供向けに、古いネタやオマージュの数々は大人向けに、丁寧に用意されたユーモアはなかなかに素晴らしいもの。
さらに観る年頃によって、受け取り方も変動していくであろう奥深さも感じ取れます。
ちょっと過剰気味に見えるほどに愛情深く育てられた7歳の少年・ティムには何のストレスも無く、自由気まま、自由奔放にノビノビと毎日を謳歌しています。
今日も明日も明後日も、当たり前のように両親に愛され、当たり前のようにやってくる楽しい日々。
そんな中で現れた赤ん坊に全てを奪われ、自分の”当たり前”が”幻想”だったと気付いたことで愛情には限りがあると知るわけですな。
一方で、赤ん坊もとある任務を背負ってテンプルトン家に派遣されて来たわけで、打算的で非常にビジネスライクな生き方には愛情の余地はありません。
自身の野望のために、さっさと任務を終えて出世しようとする姿は本当にシュールの一言。
その立場故に、愛されるということが分からず、そもそも愛情の何たるやが理解できない切ない一面も垣間見えます。
映画としてはアチコチに寄り道はするものの、テーマは一貫してこの”愛情”そのものであり、その愛情の分け方や与え方などが描かれているわけです。
独特で色彩強めな映像に目がいきがちですが、その実じっくりと噛みしめるような内容には十分な魅力が秘められているかなと。
と、ここまではまともな感動映画っぽいのですが、いかんせん世界観に入り込むまでが長いんですよ、この映画。
かなり色彩豊か(というか強め)なカートゥーン調のアニメーション然り、何の前触れも無く言葉を喋る赤ん坊の存在然り、物語の背景が見えるまでに時間がかかります。
トータルとしては非常に面白いと思うのですが、導入部分にちょいと難ありな印象ですな。
物語としては両親の愛情を巡りティムとベイビーが対立する前半と、一転してバディとなり共通の敵に立ち向かう後半といった構成。
非常にオーソドックスな展開ながらも、そこかしこに用意されたユーモアの数々と、前述したように映画ファンならニヤリとさせられるオマージュの数々により飽きることはありません。
そもそもが濃いめのファンタジックな脚本なので、作風にのめり込めればかなり楽しい内容と言えるでしょう。
それだけに気持ちが入りづらい序盤に難も感じるわけですが。。
あとはブラックジョークや風刺が強めな印象で、予想以上にほのぼのとはしていないので、愛らしくほっこりした物語としては的外れになるでしょう。
すごく綺麗で可愛らしいケーキだけれども、いざ食べてみると先に感じるのは苦み。
そんな感じ。
まとめ
愛情は奪いあうものではなく、与えあうものであるという、一貫したメッセージ。
2児の親となる苦労、親を奪われる兄の葛藤、そして協力の上に育まれる互いの絆。
やや視点は偏ってはいるものの、観終わってみれば深く心地よい満足感に包まれます。
間に挟まる小ネタも面白く、不敵でふてぶてしい赤ん坊の表情も面白く、総じて完成度の高い佳作ですな。
個人的には好きな映画ですが、やはりクセが強いので万人にはウケないかもしれませんね。
良ければ一度ご鑑賞くださいませ。