(原題:Dunkirk)
2017年/イギリス・アメリカ・フランス・オランダ
上映時間:106分
監督:クリストファー・ノーラン
キャスト:フィン・ホワイトヘッド/トム・グリン=カーニー/ジャック・ロウデン/ハリー・スタイルズ/トム・ハーディ/他
第二次世界大戦において行われた、ダンケルクの闘い(ダイナモ作戦)を描く戦争ドラマ。
戦争系映画はエンタメ路線を除き総じて長めな作品が多いですが、極めて濃いドラマを煮詰めた作品ながらも106分というタイトな映画です。
陸から、海から、空から。
それぞれの兵士や民間人の視点で綴られる本作は独特の風合いが非常に印象的で、久々に映画館で観なかったことを後悔する傑作でしたよ。
徹底的に台詞を排除し、全編をニュアンスで語る稀有な作品です。
さっくりあらすじ
第二次世界大戦初期、イギリス・カナダ・ベルギー・フランスの連合国軍はドイツ兵に包囲され、ダンケルク海岸での撤退を余儀なくされていた。
イギリス兵のトミーはドイツ軍の急襲で自分以外の隊員が全滅し、命からがらダンケルクの砂浜へとやって来たのだが、、、
一方でダイナモ作戦に際し、民間船の徴用命令が下った中年男性のドーソンはイギリス兵を救助するため、自ら船を運転しダンケルクを目指すのだが、、、
救出作戦を援護するために発進したイギリス空軍の小隊はドイツ空軍と交戦し、隊長機が撃墜されてしまう。
残ったファリアとコリンズはそのままダンケルクを目指すのだが、、、
命からがら逃げ伸びたトミー
ダンケルクの砂浜は人だらけ
ドイツ軍の攻撃に怯えながら
海岸や桟橋で救助船を待つ
ドイツ空軍の救助妨害を防ぐため
英国空軍も発進する
凪と波
まず時系列をシャッフルするのが好きなノーラン監督だけあって、時系列が無茶苦茶です。
複数の人物の視点で見る映像を重ねていく手法だけに、その各々の時系列やエピソードが複雑に交錯し、最終的に1つのゴールに収束していく構成は難解なもの。
かろうじて1度の鑑賞で概ね理解できましたが、慣れていないと2度3度と観る必要があると思います。
また繰り返し見ることで、多層に重なったエピソードの奥行きが広がり、より堪能でき得る映画だとも思います。
そんな劇中で描かれるエピソードは主に3つ。
ドイツ軍に包囲された海岸で、撤退するための船を待つ兵士。
撤退船が次々とドイツ軍に沈められる中、兵士達の救助に向かう民間の船。
そして救助船を守るため、ドイツ軍に立ち向かうイギリス空軍パイロット。
これらは実際に起きた史実を元に作られたエピソードなんだそうで、必要最低限の表現だけで各エピソードを描いたノーラン監督の判断は個人的に素晴らしいなと。
「味気ない」とか「ダレる」等の意見も理解はできますが、娯楽映画として捉えること自体が間違っているのかもしれません。
この手の硬派な戦争映画には多少の理解や教養が必要なものでして、観る側の方の姿勢が問われる作品だとも思います。
映画で描かれる一連の戦闘の時代背景や、戦略的な重要度などが理解できて初めて価値が生まれる映画なんですな。
エンタメ性溢れる、ドラマチックな作品の方が万人受けするのは常識ですが、ただただ生き延びようと名も無き兵士たちがもがくマニアックさも味わい深いものですよ。
とはいえ、常に映像的な追及で魅了してきたノーラン監督だけに、我々が求めるものに対する差異もあるんですけどね。
退屈だと評する人々の気持ちも分からんではないですが、現実に起きた事をそのままに、無駄なドラマ性を排除した構成はやはり評価すべきところなんじゃないかなぁ。
後は余談ですが、スピットファイア(戦闘機)を操るトム・ハーディがカッコ良すぎてシビれますよね。
空からの攻撃だと侮るなかれ、アナログで心許ない計測機器や、残りの燃料(駆動時間)を考慮しての葛藤などなど、緊迫感と焦燥感を感じさせる数少ないシーンとして、空軍の苦悩が良く分かりますよ。
まとめ
個人的には大満足な作品でしたが、端的に言えば「思ってたんと違う」という人の方が多いかもしれませんね。
極端に少ない台詞、動きの少ない映像的背景、映画的な”親屈側”をとことん排除した作品であり、本当に印象派の絵画を眺めているかのよう。
というか元々は映画ってサイレントなものだしね。
イギリスの思想家が「雄弁は銀であり、沈黙は金である」と語ったように、声高に叫ぶよりも押し黙る方が価値があることもあります。
一般的な映画とは異なるスタンスで観ることを余儀なくされる本作ですが、映画を楽しむための”姿勢”を省みるにうってつけな作品だとも思いますよ。
オススメではありませんが、ぜひとも観て欲しい戦争映画の一つだとは断言できます。
ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。