インソムニア


(原題:Insomnia)
2002年/アメリカ
上映時間:118分
監督:クリストファー・ノーラン
キャスト:アル・パチーノ/ヒラリー・スワンク/ロビン・ウィリアムズ/マーティン・ドノヴァン/モーラ・ティアニー/他

 




 

正義感溢れる刑事がとある事件をきっかけに不眠症を患い、自分を見失っていくサスペンス・スリラー。

1997年に公開されたノルウェー映画のリメイクであり、監督を務めたのは「メメント」や「インターステラー」や「バットマンvsスーパーマン/ジャスティスの誕生」を手掛けたクリストファー・ノーラン。

テーマは文字通り不眠症であり、アル・パチーノとロビン・ウィリアムズという二人の稀有な名俳優が物語を盛り立てます。

評判はあまり良くないですが、鬼気迫る怪演と深い脚本が見事に組み合わさった佳作だと思います。

 

 

 

さっくりあらすじ

白夜が続くアラスカ・ナイトミュートという町で17歳の少女が撲殺され、ロス市警からドーマー警部と相棒のハップが捜査に派遣される。

殺された少女・ケイは顔面を中心に殴打され、犯人の痕跡を消すためか爪は切られ、髪の毛も洗われていたことからドーマーは顔見知りの犯行であると断定する。

しかし死亡以前の打撲痕もあり、それらはケイの恋人・ランディの仕業と判明するものの、ケイの持ち物から他に男がいた可能性が浮上する。

白夜の明るさで寝付けず睡眠不足のドーマーは偽の情報で犯人をおびき出すも、濃霧で視界の悪い犯行現場で誤ってハップを撃ってしまうのだが、、、

 

 

 

 

アラスカで捜査に当たるドーマーとハップ
実は微妙な上下関係

 

眠れないまま捜査を続けるドーマー
そして取り返しのつかない事態に

 

歪んだ善人と歪んだ悪人
二人の演技は必見

 

 

 

 

ノーラン流の正義感

 

「ダークナイト」シリーズなんかでも感じましたが、クリストファー・ノーラン監督が思い描く「正義」や「罰」に至るまでの過程とは、実は”真っ直ぐ”なものではないんだと思われます。

本作に於いては、ベテラン刑事のドーマーは少年を殺害した凶悪犯を有罪にするために証拠を捏造した疑いで内務捜査を受けている身です。

そんな彼の態度から捏造がバレることよりも、そのせいで凶悪犯が無罪放免となることを恐れている節があります。

違法な捜査を続けるのも現実的には問題ですが、被害者が損をして加害者が逃げ切れるような法のバランスも現実に大いに問題を感じますよね。

 

そういった”罪と罰”のバランスに疑問を感じる「司法」の世界で正義を貫くためには相応の必要悪というものがあり、ドーマーはそれに対しての葛藤を抱え続けるが故に安息=睡眠を失っていくわけです。

誤射とはいえハップを射殺してしまったことが明るみに出るよりも、それを通じて過去の捏造が明るみに出ることを恐れるがあまり、本来持ち合わせていた正義感や信念が歪んでいくのが本作のキモとなります。

 

 

そしてそれを演じる往年の名俳優アル・パチーノの深みのある演技は流石の一言。

本当に寝てないんじゃないかと思わせるような表情から感じる”渇き具合”は鬼気迫るものであり、睡眠不足からくる怠さや判断能力の低下は観ているこっちが疲れてしまうほど。

作品全体を通して醸し出される陰鬱さは彼のものであり、大物俳優としての期待に応えています。

 

対して割と早めに現れるフィンチという男もなかなかに複雑な悪人であり、自己を正当化する卑屈な人間です。

演じるロビン・ウィリアムスは基本的に善人顔であり、実際に明るく楽しく親切な人柄を活かした役ばかりが目立っていますが、その優しい笑顔だからこそ感じる異様な不気味さが素晴らしいですね。

狂気を感じさせるうすら笑いとか、まさに怪演という言葉がピッタリであり、彼の新境地を存分に発揮していますね。

 

 

ついでにドーマーに憧れる女刑事・エリーを演じたヒラリー・スワンクも良い味を出してます。

ボーイズ・ドント・クライ」や「ミリオン・ダラー・ベイビー」で注目を集めた実力派女優ですが、善でも悪でもない第三者として、また決断を迫られた”中立”としての存在感を示す大事な役回りですな。

 

作品全体を通して、火のついた導火線のようにジワジワと真相や結末に近づきながらも、起伏に乏しく盛り上がりに欠けるのが残念なところ。

良く言えば玄人向けな演出と言えますし、悪く言えば抑揚が無いとも言えますが、ここは個人の好みの問題かな。

 

 




 

まとめ

ノーラン監督作品の中では評価されない映画ですが、個人的にはかなりの過小評価を感じますね。

彼自身の信念すら感じる骨太な正義感、それを具現化する名俳優の演技力、不眠症を通じて疲労感や焦燥感を感じさせる演出と、どれを取っても相当に高度な完成度です。

個人的にはノーラン監督やロビン・ウィリアムズに対しての固定観念が強いほどに否定的に捉えられる不遇の作品だと思っています。

逆に言えばフラットな状態で鑑賞すれば面白い作品だと言えるわけで。。

 

分かりやすく単純な演出の作品ではないので好みは分かれるところですが、味わい深いスルメ映画ではあります。

ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。

 

おまけ

睡眠とは「外部刺激に対する反応が低下した状態であり、また容易に回復する」ことが定義なんだそうですが、科学的に「何故人間は眠らないといけないのか?」を満たす答えは未だに明確ではないんだとか。

1964年に「人は寝ないとどうなるのか?」という危険極まりない実験が行われたそうで、、

二日目には目の焦点が合わなくなり視力が低下。

五日目には感情の起伏が激しくなり、思考力や記憶力や集中力が著しく低下。

九日目には幻覚症状が現れ、喜怒哀楽の表情が無くなり、眼球の異常運動が確認されたんだとか。。

被験者のランディ・ガードナー(当時17歳)の記録は11日間不眠でギネス認定、その後は後遺症も無く至って普通に過ごしているんだそうです。

ちなみに”体に害を及ぼす”可能性があるため、現在はこのギネス記録は抹消されたんだとか。

良い子のみんなはちゃんと寝ような!



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