ジョーカー


(原題:Joker)
2019年/アメリカ
上映時間:122分
監督:トッド・フィリップス
キャスト:ホアキン・フェニックス/ロバート・デ・ニーロ/ザジー・ビーツ/フランセス・コンロイ/ブレット・カレン/他

 




 

2019年に大きな話題を呼んだサスペンス・スリラー。

DCコミックスを代表するヴィランであるジョーカーがどう生まれたのかを描くオリジンな物語にして、過去の作品とは一線を画すオリジナルな物語でもあります。

 

衝撃作と呼んでも差し支えないほどに濃ゆい内容の映画ですが、監督はまさかの「ハングオーバー」のトッド・フィリップス。

既存のエンタメ映画とは明らかに毛色の異なる、イカれた喜劇ともリアルな悲劇とも取れる本作は間違いなく傑作と呼んで良いでしょう。

ちなみにR15ですよ。

 

 

 

さっくりあらすじ

財政難により荒んでいるゴッサムシティ。

母と2人暮らしの大道芸人・アーサーは生活に困窮するほどに収入が少なく、母のペニーは嘗ての雇用主であるトーマス・ウェインに助けてもらおうと手紙を送り続けていた。

コメディアンとして人を笑わせたい夢を持つアーサーだが、突発的に笑い出す疾患のせいで精神安定剤が手放せず、不安定な日々を過ごしている。

そんなある日の小児病棟での仕事の最中、同僚から押し付けられた拳銃を落としてしまい仕事をクビになってしまう。

途方に暮れ、ピエロ姿で電車に乗ったアーサーだが酔っ払いから暴行を受け、反射的に彼らを射殺してしまうのだが、、、

 

 

 

 

母を世話するアーサー
しかし母には秘密が

 

仕事は全く上手くいかず
徐々に精神が追い詰められていく

 

そして彼は何かを悟り
ジョーカーが生まれる

 

 

 

 

 

えらいもん観てもうた

としか言いようがないですよね。

「面白い」とか「つまんない」とかの括りで評価する映画ではなく、人の心のど真ん中を打ち抜くようなインパクトに溢れています。

一般的な「狂気に満ち満ちた」という感想は大いに理解はできるものの、それだけではまだ足りない、何とも底無し沼のような”何か”を感じさせる映画ですな。

 

とはいえ、作品としては特別何か捻りが効いているわけでもなく、至ってオーソドックスな作り。

「貧困に晒され、特異な病気のせいでコミュ障となった男性が歪んでいく」ような物語であり、もう予告を観れば誰もが予想できるであろう内容に終始します。

良くも悪くもDCコミックの世界感からは遠い、むしろ現実的に描かれる世界で、アーサーという男性の等身大な苦悩が描かれていくわけです。

 

その背景にある格差や貧困、人と繋がれない孤独や疎外感など、物語の背景となる「負」のオーラが満ちていく過程が非常に息苦しく、またシンパシーを感じる部分でもあると思います。

破裂寸前まで膨らんだ風船のように、ゆっくりと確実に弾けるであろう瞬間がとにかく印象的で魅力的で、そして恐ろしいわけです。

 

 

コメディアンとして人を笑わせることを夢見るアーサーですが、不気味なほどに痩せこけた見た目に加え、持病の笑い出す癖もあり、同じ芸人仲間の間でもどこか浮いている存在です。

みすぼらしい見た目も影響してか、街で仕事に励めば暴行を受け、オーナーからはろくな給料がもらえず、かといって愚痴る相手もいない。

カウンセラーとの会話はチグハグで成立しておらず、自身のギャグで含み笑いを繰り返す彼の姿は既に異常なものでもあり、「笑わせる」のではなく「笑われている」悲哀が常に付きまといます。

 

この徹底して描かれる社会の底辺でもがく男性の姿は極めてリアルなもので、息苦しさすら感じる演出がとにかく凄いんですよね。

決して楽しい作風ではなく、誰もが見て見ぬふりをしている悲しい現実がここにあるわけで。

 

経済的に恵まれず、将来的な展望を見出せない。

他者とのコミュニケーションが難しく、対人関係がストレスになる。

他人に理解してもらえず、自分が存在する意味やアイデンティティーが確立できない。

こういった点に覚えがある人は多少なり共感できる部分もあるでしょうし、それはつまり自分が隠している闇の部分に触れるということなんですな。

 

 

で、そんなアーサーが(正当防衛で)うっかり(富裕層の)人を撃ち殺すと一変し「嫌な奴が苦しむ姿は面白い」と、自分の笑いのツボを掴んでしまいます。

それに連れ、広がった格差社会により富裕層に対し嫌悪感を持っていた貧困層が一斉に蜂起、誰も気に欠けなかった男の行動が社会現象へと発展していくことに。

一人の男の苦悩や挫折に始まり、いつしか反骨と葛藤となり、それはやがて怒りや憎悪へと変身。

神々しい演出も含め、徐々に輝きを増していくアーサーに呼応するように暴動が生まれ、社会を混沌へと堕とす炎へと生まれ変わります。

物語の終盤、炎と民衆に囲まれ踊る姿こそが”ジョーカー”であり、この民衆の怒りが純度100%の”狂気”へと変貌するわけですな。

 

 

そんなジョーカーを演じるホアキン・フェニックスの演技ですが、これが本当に圧巻の一言。

亡きヒース・レジャーが演じたジョーカーも極めて素晴らしいのですが、個人的にはそれと同等以上だと思っています。

ストレスで突発的に出てしまう笑いと、本当におかしくて笑っている笑いと、同じようで異なる機微が実に素晴らしい。

ちょっと引くくらいにガリガリにやせ細り、精神を蝕まれていく様は恐ろしくも感嘆としていて、これを上回る演者が将来出てくるのかと本気で思ってしまうくらい。

今後しばらくは超えられないであろう、恐ろしい高さの壁を築いたと言って良いでしょう。

 

 




 

 

まとめ

2020年を迎え、世界の上位2100人の資産が世界の46億人(世界人口の6割)の資産を上回ることになったんだそうで、世界各地で格差が開いています。

世界に比較すると中流層が多い日本でも、というか平均的な生活を送る人でも、殆どの人は社会に対する不満を抱えて生活しているものでしょう。

 

そんな1人ひとりの不満を集め、じっくりと煮詰めることで生まれたジョーカーという存在。

これは表裏一体と言いますか、ジョーカーの姿は我々の怒りの集合体でもあるし、我々はジョーカーの欠片であるという感じ方も、決して否定できるものではありません。

当然これは危険な考え方ですし、全くもって肯定はしませんが、それでも胸に刺さるものがあるのもまた事実。

 

貧しい人々が怒りを爆発させ、金持ちどもにやり返すという図式にはカタルシスがありますし、いくら体面を装っても誰もが隠す人間性なのは否定できないところかなと。

そんな隠すべき、抑えるべき、我慢すべきものを全て解き放った本作はやはり衝撃的で、極上のエンターテイメントとして完成しています。

殆どの人間が持つであろう不満を具現化し、胸のすくような思いを体感させてくれるジョーカーはまさに現代社会が生んだ1つの人格でもあり、大げさですが我々の声を代弁してくれる存在だと言っても良いかもしれません。

 

一応R15とのことですが、子供はもちろん、社会経験の浅い人は観ちゃダメ。

不平不満を漏らし、仕事を転々とするような人も観ちゃダメ。

これは自分以外の誰かのために、身を粉にして働ける人だけが楽しむべき映画であり、良識ある人が熱狂できる極上のエンターテイメントです。

ので、以上の条件を満たす方のみ、ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。

 

 



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