リトル・ダンサー

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(原題:Billy Elliot)
2000年/イギリス
上映時間:111分
監督:スティーブン・ダルドリー
キャスト:ジェイミー・ベル/ジュリー・ウォルターズ/ゲアリー・ルイス/ジェイミー・ドラヴェン/ジーン・ヘイウッド/スチュアート・ウェルズ/アダム・クーパー/他

 




 

バレエに目覚めた少年と、彼に関わる人間たちが紡ぐヒューマンドラマ。

バレエ界で活躍す男性の少年時代を振り返るような映画ですが、余計な飾りつけをせず、淡泊に、質素に淡々と進む演出は独特の味わいを感じます。

バレエがテーマの映画ですが、グラムロック中心なBGMも個人的にツボでした。

 

複雑な社会背景の中で、純粋な少年の持つ価値観と、夢を諦めずに持ち続ける大事さを思い出させるようなこの作品。

そんな青臭さを忘れてしまった大人が観ると、なかなかに感動できるものです。

 

 

 

さっくりあらすじ

1984年、イングランド北部の炭鉱町に住むビリー・エリオット。

労働者階級の家に生まれた彼は炭坑夫として働く父と兄、痴呆気味の祖母と4人で暮らしていた。

不景気な社会で、父と兄は労働組合としてストライキの真っ最中、半ば失業中で収入も無く、暗い雰囲気が世間を包んでいる。

父はボクシングを好み、なけなしの金でビリーをボクシングジムへと通わせているものの、当のビリーはボクシングが好きになれないでいた。

 

そんなある日、ジムの隅を間借りしてバレエレッスンが開催されることになる。

音楽好きなビリーは優雅に踊るバレエに魅せられ、内緒でバレエを始めることに。

コーチもビリーの才能を認め、上達していくビリー。

しかしバレエレッスンを受けていることが父にバレてしまい、、、

 

 

 

 

Billy-Elliot-billy-elliot-13639474-760-521初めて目にする優雅なバレエ

 

Billy-Elliotグングンと才能の芽は伸びていく

 

 

 

 

削りに削った透明な演出

あっさりとしているが、実にコクが深い。

正にそんな感じ、「ぜんや」の塩ラーメンみたい。

作品の色の濃淡が薄く、淡々と物語は進んでいきますが、その陰で練りに練られた演出の妙は素晴らしいものです。

 

どのカットもセリフも音楽も、ひとつひとつが意味を持ち、重なり、極上の重奏曲を聴いているかのような一体感。

とはいえ堅苦しさは無く、ほど良いテンポとさりげない演出により、わりとすんなり理解できる親切設計。

特に音楽のチョイスは非常に斬新に感じるものであり、天才的な閃きを感じ取ることができる稀有な作品かと思います。

 

映画の舞台として、社会的な背景は非常に薄暗く、灰色に染まった世の中を見ているようです。

特に炭坑労働者組合と警官隊が衝突するシーン。

イギリス経済のことはよく知りませんが組合としてストを行う者、隠れてストから抜け出す者、各々が自分以外のことを考える余裕は無いような印象を受けます。

そのせいで隣人といがみ合い、町全体の空気が悪いような、何ともモヤがかったような重苦しい空気。

 

そんな灰色を彩るように、登場人物の個性が光ります。

もはや全員主人公と言ってもいいくらい。

 

 

ビリーがバレエに目覚めた恩師とも言える女性コーチ。

どこか苦労を感じさせる中年女性ですが、ヘビースモーカーで口が悪く、なかなかパンチのあるおばちゃんです。

 

ビリーの才能を見出し、鍛えていくわけですが、秘密のバレエ特訓がビリーの家族にバレても臆することなく毅然と立ち振る舞います。

必要以上の世話は焼かず、いびつながらも本人の意思を尊重する教育スタイルはカッコいいの一言。

ビリーがバレエスクールに合格しても「幸運を祈る」とだけ告げ、もう彼と関わりを持つことはありません。

これぞ大人、これぞ教育。

 

 

ただこのコーチ、娘がいるんですが娘もパンチのある子どもです。

ビリーと同級生くらいに見えますが、まぁ大人びているというか、マセてるというか。

「私のアソコ見たい?」

「見なくても好きだよ」

の件は名言です、ビリーカッコ良すぎ。

 

 

あとビリーの親友らしき少年。

いわゆるオカマというか、潜在的な同性愛者ぽい少年ですが、当時はまだこういった人たちを指す言葉は無かったでしょう。

女装したり化粧したり、ビリーにキスしたり、こういった演出も含め、世の中の転換期を描いているようにも思います。

 

 

そしてビリーの父&兄。

常に苛立っているせいか、すぐ怒鳴ったり、ボクシングを強要しバレエを辞めさせようとしたり、大人の事情を子供にぶつけるダメな家族として描かれています。

しかしビリーの才能を目の当たりにし、スト脱退を決意した父が、ストのリーダーである兄と話すシーンは号泣もの。

 

「自分たちの人生は終わりだけど、ビリーには未来がある」父はそう言いました。

自分や兄が懸けていたもの、人生に捧げてきたものを捨てるという決断。

その上で、残りの人生をビリーのために使おうと告げる父の姿は立派で、悲しくて、愛情と悲哀を同時に感じる名シーンです。

でも感動もつかの間、試験を受けに行ったビリー&父の場違い感がすごくて笑えるんだけどね。

 

 




 

まとめ

夢中になれるものを見つけ、諦めず、鮮やかな「チャンス」をモノにしたビリー。

そんなビリーとは対照的に、灰色の町に残って生きていくことを決意した父&兄。

 

大人になり、有名なバレエダンサーとして活躍するビリーの描写で映画は終わります。

その際にビリーの晴れ姿を観に来た父と兄の嬉しそうな顔、くたびれた雰囲気を感じさせながらも微かな光を感じさせるようです。

個人的にはこの顔を観るための物語だと言ってもいいくらい。

 

長い人生の「何」に自分を懸けるのか。

そんな深いテーマをテンポ良く魅せてくれる名作です。

 

オススメです。

ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。


 

 

 

 



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