(原題:Split)
2016年/アメリカ
上映時間:117分
監督:M・ナイト・シャラマン
キャスト:ジェームズ・マカヴォイ/アニヤ・テイラー=ジョイ/ベティ・バックリー/ヘイリー・ルー・リチャードソン/ジェシカ・スーラ/他
M・ナイト・シャラマン監督・脚本・製作のサスペンス・スリラー。
個人的には元々あまりテイストが合わず、世間から酷評された「エアベンダー」以降は特に観る気もおきなかったシャラマン監督作品ですが、今回はジェームズ・マカヴォイ主演ということで観てみることに。
全くの予備知識を持たずに観たので気付きませんでしたが、どうやら2000年公開の「アンブレイカブル」と世界観を共通させいるようですね。
2019年には続編となる「ミスター・ガラス」も公開されるということで、いつから構想を練っていたかは定かでないですが、随分と気の長いシリーズだなと。
さっくりあらすじ
女子高生・クレアの誕生日パーティーが開かれ盛り上がっている中で、良からぬ噂が絶えないケイシーだけは退屈そうな態度で浮いていた。
皆が帰る時間を迎えると、クレアの父親が迎えの無いケイシー、マルシア、クレアを車で送っていくことに。
子供たちをを車に乗せ、父親がトランクを開けると何者かに襲われ気絶、そのまま車に乗り込んできた男はスプレーを吹きかけ、3人とも意識を失った。
窓の無い部屋で目を覚まし、3人は監禁されていることを悟るのだが、、、
少女3人を誘拐した男・ケビン
気難しく神経質
心療内科に通う日々
少女たちに”何か”の到来を告げる
マカヴォイ無双
先述した通り、シャラマン監督作品が全く響かない筆者ですが、本作に限っては素直に面白かった印象です。
一応のシリーズ作品の2作目ということですが、前作を観なきゃ観ないで、それなりに楽しめる映画だとは思います。
サスペンス・スリラーとしての序盤の掴みや転換点など、なかなかに抽象的で先の読めない展開には随所に工夫が感じられます。
狙いの読めない誘拐犯と、孤独に生きる少女との対比や駆け引きなど、グッと物語に引き込む魅力は十分ですね。
ただし密室系サスペンスとしての力不足も否めず、脱出までの緊張感を描くスリラーと、何が起きているのかを紐解くサスペンスと、どっちつかずな気がしないでもないです。
そもそも完結編へと向かう”繋ぎ”の作品だとも言えますし、単体作品としての完成度に欠けるのはまさにそこが原因となります。
2年~5年のスパンで続く3部作なら理解も出来ますが、十数年ぶりのシリーズ続編だと考えると丁寧さが足りてないような気もしますかね。
そんな微妙な判定を一気に覆すのが、謎の誘拐犯を演じたジェームズ・マカヴォイの圧倒的な存在感。
これはもう、この演技力は本当に素晴らしく、これだけでも十分に観るに値すると思います。
繊細で感情豊かだったり、神経質で気難しかったり、幼稚でアホっぽかったり、あらゆる表情や仕草で色々な感情を表現する演技は圧巻の一言。
いわゆる「多重人格」を演じるような映画や俳優は数あれど、これほどに怪演を成し遂げた役者はそう多くはありません。
あらゆる人格に”らしさ”を備え、また説得力を持たせる演技は本当に難しいもので、なおかつそれを自然に見せるというのは至難の業なんですよ。
大袈裟な身振り手振りで訴えるのことは誰でもできますが、ここまでナチュラルに人格を演じ分ける人は少ないですよ、ホント。
そんなマカヴォイ無双を引き立てる少女・ケイシーを演じるアニヤ・テイラー=ジョイもまた素敵。
意味不明に囚われ、狼狽する同級生を横目に務めて冷静に、虎視眈々と脱出を狙う主人公・ケイシーという少女。
年端もいかぬ彼女の過去を紐解いていくことで見えてくる心の傷と、それを覆い隠そうとする心の強さ。
逃げ出すタイミングを待つ強い眼差しと、不可能を悟った際の弱い眼差しと、その繊細な演技と風貌は将来の大器を予感させますな。
まとめ
内なる複数の人格が進化を求め新たな人格を生み、その”ビースト”と呼ばれた人格を相手に過去の境遇を重ね合わせ、強さを取り戻していく少女。
サスペンス調ながらも自身のトラウマや傷と向き合い、それらを克服していくという純度100%のシャラマン節ですな。
オチが若干アレな気がしないでもないですが、それを含めても良作な映画かなと。
完全に次作を意識したような構成なので、これはもう素直に続編の公開が待ち遠しいところです。
低迷期を乗り越え、徐々に上り調子になってきたシャラマン監督の今後にも期待ですね。
ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。