サンキュー・スモーキング


(原題:Thank You for Smoking)
2005年/アメリカ
上映時間:93分
監督・ジェイソン・ライトマン
キャスト:アロン・エッカート/マリア・ベロ/キャメロン・ブライト/デヴィッド・ケックナー/ロブ・ロウ/アダム・ブロディ/他

 




 

煙草産業のロビイストに焦点を当てたブラック・ユーモア満載の社会派ドラマ。

監督は「JUNO」や「セッション」で有名なジェイソン・ライトマン、父のアイヴァン・ライトマンも有名な映画監督ですね。

あまり期待するでもなく何となく観ただけの作品なんですが、これがなかなか面白くてですね、個人的には久しぶりのヒットだったんですよ。

 

タバコを好む人、嫌う人、世間的には嫌煙ムードが強まる昨今ですが、そういった事情の上で描かれた作品であり、タバコを売るために屁理屈をこねまわす物語です。

親は子の成長を見守り、また親も子供に教わるという親子の交流を描いた作品でもあります。

「理想と現実」「建前と本音」そして虚実を交えたコミカルな演出は非常に興味深く、タバコ云々は置いといても結構勉強になりますよ。

 

 

 

さっくりあらすじ

タバコ研究所の広報部長を務めているニックは喫煙者の権利を守るために日々奮闘している。

タバコがもたらす健康被害や因果関係を無関係なものだと声高に語り、その巧みな話術は「情報操作の王」とまで評されていた。

しかし私生活では離婚を経験し、世間からは嫌われてはいるものの、一人息子のジョーイだけはニックを尊敬している。

ある日、嫌煙家の上院議員がタバコのパッケージにドクロマークをつけようと画策している事を知り、ニックはジョーイを連れハリウッドへと飛び、ハリウッド映画に喫煙シーンを盛り込むよう監督に働きかける。

更にタバコの被害を訴えかける俳優に間接的に金銭を受け取らせることにも成功。

一仕事終えたニックは楽しみにしている、同じく世間の嫌われ者である銃器産業・アルコール産業との広報と飲食を共にし、美人記者・ヘザーとの時間を過ごす。

しかし後日、ヘザーの勤める「ワシントン・グローブ」紙の記事にはニックが洩らした裏事情が暴露されてしまうのだが、、、

 

 

 

 

タバコ産業の広報・ニック
情報や印象の操作に長ける

 

息子のジョーイにもノウハウを叩き込む

 

記者のヘザー
枕取材でスクープゲット

 

 

 

 

理屈は武器になる

冒頭から主人公・ニックの詭弁で始まる本作ですが、屁理屈だと分かってはいるものの否定できるほどの嘘ではなく、どこかで「なるほど」と納得してしまう口八丁の妙は非常にユニークです。

 

嫌煙協会の人達や肺ガン患者という鉄壁の布陣を前に、臆することなく自分の意見を語るニックの姿には何か得るものがあると思います。

「煙草にドクロマークをつけるなら、バターとかマーガリンにもつけろ」

「肺ガン患者が無くなって悲しいのは、大切な顧客を亡くす我々煙草産業である」

と、一概に間違っているとまでは言えないギリギリの意見で文字通り煙に巻くわけですな(タバコだけに)

 

このポイントはニックは決して「嘘」を言っていないというところで、それと同時に「事実」も決して明らかにしないという点にあります。

この「嘘じゃないけど本当じゃないよ」という物言い、つまり「正しいことを言うのではなく、相手の間違いを指摘する」というスタンスは政治家を目指す方なら必ず観ておくべきでしょう。

願わくば正直者が得をする世の中になってほしいものですが、良くも悪くも適切な言葉を選び、窮地を脱し、目的を果たすことは上を目指すのに必須なスキルですもんね。

 

そんな”煙草”というアイテムを中心に描かれる本作ですが、父・ニックと息子・ジョーイのやり取りも強調して描かれます。

ロビイストという仕事柄、どうしても敵の多く、尚且つ元妻にも愛想を尽かされているものの、唯一ジョーイだけはニックを心から尊敬しています。

アイスクリームをテーマにディベートを交わし、父親に憧れる息子のスキルを磨こうとレッスンをする姿はキャッチボールを通して投球フォームを教える父親のそれと大差ないでしょう。

そしてこの交流が最終的にニック自身を救うわけで、正にこの親にしてこの息子といった感じで、良いか悪いかは別にして親子共々の成長はなかなかに感動させられます。

 

 

主人公・ニックを演じるアーロン・エッカートは「ダークナイト」シリーズのハービー・デント(トゥーフェイス)が印象的な俳優ですが、なんとも知的でニヒルな”ハンサム”な印象を受けます。

お世辞にも善人とは言えず、屁理屈を武器に事実を捻じ曲げるような嫌なヤツであり、生真面目な人からすれば結構ガチでムカつくかもしれません(笑)

 

ただこのコミカルさ、煙草という現代でシリアスになりつつあるテーマのバランスを体現するキャラクターとして、かなりの名演技ではないかなと思います。

印象的なケツ顎と、ヘラヘラと愛想を振りまく嘘くさい笑顔(誉め言葉)から放たれる詭弁はかなりの説得力がありますね。

数少ないエッカートの主演作ですがライトマン監督との相性も良いように感じますし、またタッグを組んで新しい作品が観てみたい、そう思わせる良い俳優だなと。

 

 

あと一点だけ、いかなる理屈や言論を武器にしようと、純粋な力技や暴力の前には成す術がないというところも個人的には面白かったです。

剣はペンよりも強いんだよね。




まとめ

皮肉っぽいスパイスの効いた良作と言えます。

最終的には親子を通した人間的な成長を描いた作品であり、一応は煙草をテーマにしてあるにも関わらず喫煙シーンは皆無であるという皮肉も忘れません。

全体的にテンポ良く、劇中で交わされる議論も面白く、シニカルなセンスを感じるなかなかの傑作だと思います。

 

ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。

 

 

 



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