THE GUILTY ギルティ


(原題:Den Skyldige)
2018年/デンマーク
上映時間:88分
監督:グスタフ・モーラー
キャスト:ヤコブ・セーダーグレン/イェシカ・ディナウエ/ヨハン・オルセン/オマール・シャガウィー/他

 




 

警察の緊急通報オペレーターを通し、不可解な事件を解決に導くソリッド・シチュエーション・サスペンス。

真摯に内容を加味して選出するサンダンス映画祭で観客賞を受賞し、変わり種な演出方法が話題を呼びました。

実際に批評家の間では極めて高評価を得ており、ハリウッドリメイクも決定したんだとか。

 

たった3台のカメラのみで撮影され、全くの違和感を感じさせない長回しの演技は素晴らしいの一言。

映像表現ではなく音に集中せざるを得ない緊張感や、音を通して掻き立てられる想像力は独特の味わいがあり、集中せざるを得ない作風は「フォーンブース」に近いかな。

久しぶりに骨のある映画でしたよ。

 

 

 

さっくりあらすじ

警察官のアスガーはとある事件から現場の捜査を外れ、緊急通報オペレーターとして署内で過ごす日々を送っている。

翌日に裁判を控える身であり、予定通りの判決が下れば現場復帰をするため、いざ緊急通報を受けても雑な対応を繰り返していた。

もうじきシフトが終わろうという時、女性からの緊急通報が入る。

イーベンと名乗る女性の話は要領を得ず困惑するも、会話の糸口から彼女が誘拐されていることに気付くのだが、、、

 

 

 

緊急通報指令室
デンマークの緊急ダイヤルは112番

 

オペレーターのアスガー
ほぼ彼の1人演技

 

 

 

 

 

聴覚

本作が長編監督デビューとなったグスタフ・モーラー氏は公開当時は若干30歳の超若手ですが、低予算ながらもずば抜けたアイデアが光る素晴らしい完成度です。

言ってみれば警官がヘッドフォンをつけて会話をしているだけの映画ですので、通話を通して入って来る情報だけを頼りに物語の輪郭を掴んでいくわけです。

映画を通して最も印象に残るものは「映像表現」だけではないと主張する通り、文字通り耳だけを頼りに推理する映画は革新的だと言って良いでしょう。

 

舞台が警察の緊急通報指令室ということで、映像的な表現は極端に狭く、殆ど変わり映えがしません。

映像の殆どが同じ部屋の中だけの出来事であり、一度だけ隣の部屋に移るくらいで、視覚的な変化は本当にありません。

ついでに全編を通じてとっても静かでBGMも皆無、緊急通報だけに鳴り響く電話の呼び出し音だけが無機質に響き渡り、どこか不気味さと焦燥感を煽ります。

さすがに、緊急通報オペレーターがここまで独断で動いていいものかと思うところもありますが、そこにツッコむのは野暮というものでしょう。

 

登場人物は極めて少なく、画面に映る人物の大半は主人公・アスガーだけと言っても良いくらい。

相当な低予算で作られたであろうことが容易に想像できるわけで、予算不足を言い訳に退屈な映画を量産している邦画界にはつらい現実じゃないですかね。

「音」だけにフォーカスした脚本もさることながら、事件を更に二転三転させ、解決への糸口を与えると共に事件の真相を紐解いていく手腕は本当に見事なもの。

繰り返しになりますが、グスタフ監督のセンスが光る素晴らしい構成です。

 

そんな中でとある誘拐事件の可能性を嗅ぎ取り、アスガーが解決に向けて奔走する内容となりますが、演じるヤコブ・セーダーグレンの快演も実に素晴らしい。

ノーカットで長回しな作風だけに仕草や表情や台詞回しなど、その一挙手一投足の機微が求められるわけですが、これがもう本当に堂々たる演技。

やや長めの間を取るようなシーンでも極めて自然で深みがあり、電話を通じてしか得られない情報で事件解決に臨む姿はそれだけで絵になります。

どこかくたびれた雰囲気のおじさんが、事件解決に向けて喜々として張り切る姿も伏線になると。

演出する側も、演じる側も共に素晴らしい、良い仕事をしています。

 

 




 

 

まとめ

地味な映画ではありますが、丁寧に練られた脚本と工夫が活きた良作だと思います。

既存の映画の枠に当てはまらないアイデア、映像作品にも関わらず「音」を頼りにするという奇抜な発想は実にユニークで興味深いものでした。

また、変わり映えの無い退屈にもなり得る映像の中で、極めて自然に焦燥感を表現した演者にも賛辞を贈りたいと思います。

 

若干人は選ぶ映画ではありますが、オススメです。

ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。



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