(原題:Extermely Wicked,Shockingly Evil and Vile)
2019年/アメリカ
上映時間:109分
監督:ジョー・バーリンジャー
キャスト:ザック・エフロン/リリー・コリンズ/カヤ・スコデラリオ/ジョン・マルコヴィッチ/ジェフリー・ドノヴァン/他
1970年代に実在した連続殺人犯テッド・バンディこと、セオドア・ロバート・バンディの内情に迫る伝記的犯罪映画。
サンダンス映画祭で上映され、批評家からも概ね好意的に評価された本作は希代の殺人鬼が巻き起こした一連の事件の真相が描かれます。
実に30人以上を殺害したとされるテッド・バンディ。
「悪魔」とも称された殺人鬼を何を想い、どう死んだのか。
不謹慎ながらも非常に興味深い人間性を知る手掛かりとして、フィクションではなく現実に起きた痛ましい大事件として、最近はすっかり脂っこく個性派俳優が板についてきたザック・エフロンが熱演で応えます。
さっくりあらすじ
1969年、離婚し引っ越してきたばかりのシングルマザー・リズは親友のジョアンナとバーへやって来た。
すると知的でハンサムなテッドと名乗る男性が近づき、2人は意気投合する。
恋愛に対し消極的だったリズも心を許していき、娘のモリーとも良好な関係を築いたテッドと3人で幸せな家庭を築いていくのだが、、、
バーで出会ったリズとテッド
2人はすぐさま意気投合
しかしある事件をきっかけに
徐々に彼に疑念が生まれ始め
最終的に逮捕され
その異常性が明らかに
俯瞰
犯罪史に残るレベルのシリアルキラーであるテッド・バンディ。
そんな異常な内面を隠し持つ犯罪者の姿を掘り起こすというよりは、近しい第三者から見た彼のイメージを映像化したような印象です。
脚色はかなり控えめに、実際に残る事件録と証言を忠実に再現したような内容であり、ややドキュメンタリータッチな作風と言って良いでしょう。
つまりはシリアルキラーの異常性をエンタメ風に味付けした映画ではなく、あくまで「テッド・バンディはどういう人間だったか」を他人の視点で描いた映画なわけです。
よって、残酷なスプラッタ系をイメージすると肩透かしになるのでご注意を。
物語としては、法律家を目指す若きイケメン・テッドと、そんな彼に恋をしながらも疑念を拭いきれないシングルマザー・リズの胸中が中心に描かれます。
言ってみればシリアルキラーだと疑われるテッドと、そんな彼を愛してしまったリズのラブストーリーな仕立てという変わった仕上がりに。
テッド・バンディの異常性は終盤まで描かれることはなく、至って普通の賢い青年が理不尽な国家権力に抗う物語という側面も見えてきます。
最初から彼が犯人であると知っているだけに「もしかしたら違うのかもしれない」と思わせるようなアドバンテージを持たせてあるわけですな。
さらに、この手のサスペンスにありがちな残酷なシーンは極力控えめになっており、聞いているのがツラくなるような公判での実況見分の報告にゾッとするような嫌悪感を表現するのは演出として上手い作りだなと感心しました。
で、とりあえず観た感想としては「テッドはほぼ間違いなくクロ」だという安堵感と「何故テッドはリズを愛し、殺さなかったのか」という疑念が複雑に入り混じります。
事件後の取材や検証により、加害者であると断定されているテッド・バンディですが、とにかくその存在自体が摩訶不思議。
若い女性を強姦し、切り刻み、頭蓋骨を粉砕し、噛みつく。
誰がどう見ても生かしておいてはいけない超危険人物であり、むしろこんな人間が現実に存在するのかと疑う気持ちすら出てきてしまいます。
そして、その”疑う気持ち”は誰もが同じように持ち、多くの人は冤罪だと信じて疑わず、あまつさえ彼のファンまで出てきてしまう始末。
劇中ではテッド本人の映像も差し込まれますが、事件の結末を知っている筆者ですら、ほんの少しだけ「嘘だろ」と思わせるような人間味があるわけですよ。
フランクな記者と話し、笑い、死刑がかかる裁判を戦っているとは思えないほどにリラックスした表情に、観ているコッチ側が割り切れない複雑な感情を抱かせます。
「人は見た目で判断してはいけない」と、誰もが知っている慣用句ですら、彼の前では霞んでしまう説得力があるのではないでしょうか。
まとめ
「ジョーカー」を観た時と似たような感じというか、面白いとかつまらないとかより「ヤバいもん観ちゃった」ような、ソワソワした感じになりますよ。
事実は事実として残りますが、突き抜けた彼の異常な心理や思考に対し、全く理解が及ばないもどかしさだけが残ります。
過去の話、もう終わった話だと理解はしているものの、どうしてこんな人間が生まれたのかは謎のまま。
この先同じような人間が生まれないとは限りませんし、人間が抱える狂気の可能性に畏怖するばかりでございます。
ぶっちゃけそんなに面白くはないけど、興味深い映画ではあります。
サイコパス、ソシオパス、シリアルキラーと、多少なり興味がある人が観ればそれなりに楽しめるんじゃないでしょうか。
良ければ一度ご鑑賞くださいませ。