めぐり逢わせのお弁当


(原題:Dabba)
2013年/インド・フランス・ドイツ
上映時間:105分
監督:リテーシュ・バトラ
キャスト:イルファーン・カーン/ニムラト・カウル/ナワーズッディーン・シッディーキー/パーラティー・アーチュレーカル/他

 




 

間違って届いたお弁当を通じて、孤独を感じる主婦と初老の男性の交流を描いたロマンス・ドラマ。

2010年に公開された「きっとうまくいく」をはじめ、近年は「ダンガル きっと強くなる」や「バーフバリ」や「パッドマン 5億人の女性を救った男」などなど、ドラマ性、エンタメ性、社会性に富む映画を連発しているインド映画市場。

”歌って踊るマハラジャ映画”なイメージも昔の話、世界的に通用する素晴らしい産業改革が進んでいますね。

監督・脚本を担当したリテーシュ・バトラ氏は本作が長編映画デビューだそうで、氏の情報が少なすぎて良く分かりませんが、今後の輝かしいキャリアを予想させる味のある映画でした。

 

 

 

 

さっくりあらすじ

インドの都市・ムンバイで暮らす主婦のイラは、仕事優先で家庭を顧みない夫との関係を良好にするために毎日心を込めてお弁当作りに励んでいた。

そんなある日、いつものように弁当配達便に出したお弁当は退職間近の男性・サージャンの元へと届いてしまったことをきっかけに、2人は手紙を通じて交流を図る。

次第に打ち解けたイラは家庭の悩みを相談するようになり、また人を避けて生きていたサージャンもイラに真摯に向き合おうとするのだが、、、

 

 

 

 

退職を間近に控えるサージャン
妻を亡くした孤独な男

 

丹精込めてお弁当を作るイラ
家庭に興味を持たない夫に疲れている

 

 

 

 

 

めぐり逢わせ

ですね、それ以外に言いようの無い美しい物語ですよ。

 

まず初めに、インドのお弁当宅配ビジネス”ダッバーワーラー”ですが、このシステムに度肝を抜かれますな。

最初に本作を知った時は「ふーん、面白いねー」くらいの感想でしたが、いざ目の当たりにするとこれは凄いことですよ。

 

ものすごく組織化された宅配網はムンバイでは100年以上の歴史を誇るんだそうで、大都市ムンバイで働くビジネスマンの食を支え続けているんですな。

その数が実に175,000個と、にわかに信じがたい数のお弁当を4000~5000人の業者が運ぶそうで、しかも時間に正確に、なおかつ間違いなく運ぶそうですよ。

最新の調査では600万個に1つくらいの割合でしか誤配達が起きないんだそうで、コレはほぼゼロと言って良い確率ですし、高度に練られたマンパワーの可能性を改めて考えさせられますね。

 

で、またお弁当が美味しそうなんですよ、全部カレーだけど。

一般的に僕らが食べる欧風カレーではなく、ローカルなインドカレーで見た感じは南インドカレーの雰囲気に近いでしょうか。

お惣菜を入れる専用のお弁当箱(ダッバー)も機能的で可愛らしく、普通に1個欲しくなるくらい。

高温多湿なインドで食中毒が出ないのも不思議ですが、そんなお弁当を中心とした映像の数々にはローカルな情緒がたっぷりと感じられるでしょう。

 

 

物語としては、自分や娘を省みない夫に辟易としている若妻と、妻を亡くしてからは人と距離を置くようになった偏屈な男性との交流が描かれます。

2人に共通するのはまさに「孤独」そのものであり、自分を慕う人や支えてくれる人がいないわけではないですが、生きている実感の湧きにくい孤独感の演出が秀逸です。

実際に彼らが苛む孤独感は非常に身近なものだと思いますし、ちょっとした心の隙間を埋めてくれる相手に特別な感情を抱くことも珍しくはないでしょう。

 

顔を見せないからこそ言える悩み、顔を合わせてしまうと無くなる安心感、この微妙な距離感はSNSの時代に生きる現代人なら多少はピンとくるものがあるのではないでしょうか。

人と距離を置いた人生を歩み、人に近づくことに抵抗感がある、寂しいサージャン。

自分の愛情や気持ちに対し明確なレスポンスが欲しい、寂しいイラ。

微妙にすれ違う2人の気持ちがもどかしくもテンポ良く、5歩進んで4歩下がるような展開には続きが気になる魅力が溢れています。

 

エンディングがちょっと難しく賛否分かれるところでしょうが、先のことは誰にも分からず、暗い未来にも明るい未来にも解釈できる結末は個人的には好みです。

どちらとも取れる結末って観る側のポジティブorネガティブの写し鏡だと思いますし、十人十色に導けるエンディングがある映画は面白いものだと思いますよ。

 

 




 

 

 

まとめ

全体的に影のある作風ではありますが、非常に優しく切ない良質なロマンスだと思います。

さりげなく描かれるインドの社会情勢も含め、世界的にも珍しい土着の文化を背景に描かれる物語は興味深いものでした。

できればね、もう少し2人の物語を観たいのが正直なところですが、この潔い終わり方にはバトラ監督のセンスも感じます。

インド映画もどんどん面白くなってますね、今後後悔される映画にも大いに期待したいところです。

 

やや人は選ぶ作品ではありますが、大人の映画が観たい人にはオススメです。

ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。



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