はじめてのおもてなし


(原題:Willkommen bei den hartmanns)
2016年/ドイツ
上映時間:116分
監督:ジーモン・ハーフーフェン
キャスト:センタ・バーガー/ハイナー・ローターバッハ/フロリアン・ダーヴィト・フィッツ/パリーナ・ロジンスキー/エリアス・エンバレク/エリック・カボンゴ/他

 




 

難民を受け入れた家族の騒動を描いたコメディ・ドラマ。

ヨーロッパやアメリカで問題となっている難民移住問題の根幹を真摯に捉え、なおかつユーモアたっぷりに笑わせてくれる秀作です。

 

日本ではあまり馴染みがなく、対岸の火事と化している難民問題ですが、これが本当に切実な社会問題となっております。

国の治安が悪化し、政府や行政が機能しない社会。

日常的に侵略や略奪行為に晒され、あらゆる資産や食料、果ては生命まで脅かされる社会。

何とか生き延び、差別や嫌悪感に晒されながらも懸命に生きる人。

そういった不幸な人々に紛れ、虎視眈々とテロを狙う者。

あまりにも根深く、解決法が見出せず、どうにもできない現実があるわけですな。

 

知っているようで知らない難民の存在を、また受け入れる側の権利と自由の意味を、一度は観ておくべき作品だと思います。

 

 

 

 

さっくりあらすじ

大病院の外科医長を務めるリヒャルトは多少の問題を抱えながらも裕福に暮らし、教師を定年退職した妻のアンゲリカと共に何不自由ない生活を送っている。

息子のフィリップはシングルファザーながらも企業弁護士として活躍し、娘のゾフィは31歳ながらも大学に通い勉学に励んでいた。

しかし専業主婦となり時間を持て余したアンゲリカは密かに決心し、家族が揃った夕食時に難民を受け入れることにしたと告げる。

リヒャルトとフィリップには猛烈な反対を受けたものの、翌日には難民との面接に向かうのだが、、、

 

 

 

 

上流階級な一家
難民受け入れの是非でモメる

 

いざ受け入れるにあたり
難民との面接を繰り返す

 

そしてナイジェリアの青年
ディアロを受け入れるのだが、、

 

 

 

 

 

壊すべき壁

実際に、現実問題として難民や亡命というのは年々増えているそうで、ユーロ圏の国々ではかなり深刻な問題となっているんだそう。

そもそも住む場所や仕事を失い、生命の危機を感じたからこそ自分の国を捨てたわけですが、受け入れてくれた先では猛烈な差別を受ける難民たち。

当たり前ですが移民の許可も簡単にもらえるわけでもなく、従って定職に就けるわけでもなく、結局は極貧な生活を余儀なくされるわけです。

 

そんな社会背景をテーマに、裕福な家庭の日常が対照的に描かれます。

立派な邸宅に住み、金銭的にも地位的にも明らかに上流な生活を送る家族ですが、彼らなりの悩みも些細なものであれ積み重なるとそれなりの苦難となります。

寄る年波を受け入れられず、斜め上な若返りを実践する夫・リヒャルト。

時間を持て余し、何か社会貢献を考えるも空回る妻・アンゲリカ。

どっぷり仕事につかり過ぎで、息子の教育を後回しにする息子・フィリップ。

金銭的な苦労を知らず、お花畑な頭で自分探しに励む娘・ゾフィ。

難民の苦労と比べるものではないですが、裕福なら裕福なりに色々と大変なんだと示唆されており、幸せの定義に一石を投じる内容ともなっております。

 

 

物語としては、裕福な家庭に引き取られた難民の青年が一緒に暮らしながら、定住の許可を待つという流れ。

その間に様々なトラブルが続発するわけですが、どのエピソードも実にコミカルでユーモアたっぷり、素直に面白い演出が功を奏しています。

難民に寛容な国であるドイツですが、当然誰もがウェルカムなわけでもなく、劇中では様々な差別や嫌がらせが描かれます。

そのどれもが恐らく真実であり、その上で生々しい内容にならないよう配慮したのが見て取れるわけで、これは非常に素晴らしい演出ですな。

 

また、難民青年ディアロはドイツ語が上手く話せず、それ故にストレートな物言いが響くことがあります。

国の歴史を支える文化、その文化により教育される人々、そして人々の親和性により生まれる常識。

育ちの違いと言えばそれまでですが、異なる考え方を知るというのは大事なことなのかなと少々考えさせられますね。

 

 

そして、ほのぼの笑えるコメディ・ドラマの中で唯一笑いの無いシーンとなる、ディアロの過去を語るシーン。

実在する過激派組織の名前が出たのは些かビックリでしたが、恐らくはコレも誰かモデルがいてこその物語なのだと改めて気づかされます。

あくまでコメディではあるものの、作品の本質をつく表現の数々は現在進行形のものなのだと。

 

あとはオマケの話ですが、リヒャルトの悪友的な美容外科医が一番皮肉っぽくて個人的にツボでした。

美容外科医としての腕はともかく、表面的にしか物事を見れない浅はかさ、軽薄でチャラそうな雰囲気はなかなか上手いこと描かれています。

好きな言葉は情熱な人達もこういう風に見えますもんね。

 




 

 

まとめ

あくまで面白おかしく、殺伐とした雰囲気にならないように、その上で大事なメッセージを添えた秀作です。

いち映画としても面白いですし、やはり馴染みのない難民問題を知るにあたって非常に良く出来た映画だと言えるでしょう。

中学生くらいになったら学校で観せても良いと思うくらいですわ。

 

異なる人生、異なる文化、そして異なる環境に異なる立場。

何もかもが違う人々の間には差別的な壁が生まれるのが世の常ですが、同じ人間として何を考えれば良いのか。

そのきっかけになり得ると、なって欲しいなと、本気で思います。

 

オススメです。

ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。



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