(原題:BlacKkKlansman)
2018年/アメリカ
上映時間:128分
監督:スパイク・リー
キャスト:ジョン・デヴィッド・ワシントン/アダム・ドライバー/トファー・グレイス/コーリー・ホーキンズ/ローラ・ハリアー/他
白人至上主義団体の軌跡と実態を、痛烈な風刺と共に描いたクライム・サスペンス。
主人公ロン・ストールワースは実在する人物だそうで、実話とまではいかなくとも伝記的映画と言って差し支えないと思います。
舞台となるのは1970年代のアメリカ・コロラド州、まだまだ人種差別が横行する時代であり、差別する白人至上主義と虐げられる黒人達がバチバチだった頃のお話です。
トランプ政権になってから再び炎上中の人種差別思想ですが、お隣さんと絶賛喧嘩中の我々日本人も観るべき作品だと思います。
いかなる発想が思想に変わり、差別に至るのか。
また差別という現実はどういったもので、どこに行きつくのか。
そういった人と人の問題を考える良いきっかけになるのではないでしょうか。
さっくりあらすじ
1972年、黒人として初めて警察に採用されたロン・ストールワースは刑事課を希望していたが、書類管理の仕事に配属された。
それでも潜入捜査官になりたいと熱望したロンは、黒人主義運動家であるクワメ・トゥーレの演説会への潜入任務を受け、活動家のパトリスと出会う。
その後、情報部に配属されたロンは白人至上主義団体(KKK)が新しい支部の構成員を募集していることを知り、白人のフリをして電話をしてみることに。
結果としてKKKに気に入られた彼は実際に会う約束を取り付け、自身は電話で、実際に会うのは同僚の白人警官・フリップにまかせることになるのだが、、、
電話での交渉はロンが
現場への潜入はフリップが
二人三脚でKKKの内情を暴く
映画と現実
政治や社会的な問題を切り抜き、映画へと落とし込む作風が持ち味のスパイク・リー監督ですが、今回も多分に漏れず切れ味鋭い風刺がテーマとなります。
偏見と悪意に満ちた白人主義思想と、怒りを溜め込み虎視眈々と反撃を狙う黒人思想と、言ってみれば白と黒の対比を意識せざるを得ない演出が中心なんですな。
そしてこれらは決してエンタメの話ではなく、過去から途切れることなく続いてきた現実の問題でもあり、時として直視するのがつらくなる程に満ち満ちた”怨嗟”が感じ取れるわけです。
そんなドロドロと渦巻く怒りや嫉みや悲しみをベースに、緊張感溢れまくる潜入捜査というサスペンス性が良いアクセントとなっており、作品の抑揚が作られています。
社会派ドラマであり、エンタメ性溢れるサスペンスであり、結果エンタメ作品としてのこのバランス感覚は極めて優れたものだと言えるでしょう。
流石の一言ですわ。
物語としては、初めて警官になった変人っぽい黒人と、彼に付き合って危険な団体に飛び込むユダヤ系刑事が潜入捜査に臨むという流れ。
クー・クラックス・クラン(KKK)という団体は良くも悪くも有名ではありますが、恥ずかしながらブラック・パンサー党という団体は初めて知りましたよ。
序盤でロンが潜入した党の演説では、警察にマークされながらも活動を続けるクワメという男性が声高に思想を叫びますが、これが凄い剣幕でね。
差別により疲弊した過去、積もりに積もった怒り、それを爆発させた勢いと、どれを取っても凄い迫力があり、思わず耳を傾けてしまいそうな”熱”があります。
演じたコーリー・ホーキンスはTVドラマに映画にと幅広く活躍していますが、この数分の演技が個人的には最も印象に残りました。
キャスティングとして、主演のジョン・デヴィッド・ワシントンですが、かの大御所デンゼル・ワシントンの息子さんなんですね。
全然気づかなかったけど確かに面影はあるし、何より「マルコムX」を演じたデンゼル・ワシントンの息子が同じリー監督の作品に出演するとは、時の流れを感じさせますな。
超一流俳優の息子というレッテルも何のその、堂々たるふてぶてしい演技は素晴らしく、今後の活躍も楽しみです。
そしてもう1人の主人公・フリップを演じるアダム・ドライバーは流石の安定感。
すでに安定感を感じる程に卓越した演技力があり、これから年齢を重ねる程に大成するであろう伸びしろも感じさせます。
カイロ・レンのイメージも今や昔の話、あらゆるキャラクターを演じ分ける器用さを持つ印象が上回ってきましたね。
最後にもう1つ。
最後の最後、エンディングでは実際に起きた、記憶に新しい事件の映像が流れます。
それは痛ましく悲しい事件の記憶であり、トドメと言わんばかりの主張を持って流れる映像だけは映画の話ではなく、現実に起こったものです。
これは結構メンタルに響くものではありますし、これを観たから何なんだって話ではありますが、人が人を嫌った結果に起きた事件として、僕らも胸に刻んでいく必要があるのだと思います。
まとめ
あくまで風刺的な社会派エンタメ作品だとは思いますが、本作に限ってはリー監督の主観というか、主張がかなり強めな印象です。
さらに言えば敢えて強いメッセージ性を訴えているようにも見えますし、映画というコンテンツを通じてリー監督が何をしようとしているのか、また観客に何を感じ取ってほしいのかという姿勢も見えてきます。
正直に言えば決して楽しい映画ではないですが、観客の心に訴えるストレートなメッセージがひしひしと伝わってくる感じ。
観る人次第で受け止め方も変わるし、これからの考え方にも多少の影響もあるのかもしれません。
そういう可能性を秘めた作品だとも言えるでしょう。
ただし、映画としての面白さや魅力に直結することではないので、個人的にこういった面は判断材料にすることはありませんが。
楽しい映画ではないですが、観る意味のある作品だとは思います。
白人視点で描かれる対照的な作品「アメリカン・ヒストリーX」も一緒に観て欲しいところですな。
よければ一度ご鑑賞くださいませ。