(原題:Buried)
2010年/スペイン
上映時間:95分
監督:ロドリゴ・コルテス
キャスト:ライアン・レイノルズ/ロバート・パターソン/ホセ・ルイス・ガルシア・ぺレス/スティーブン・トボロウスキー/他
棺の中に閉じ込められた男が脱出を目指す、ソリッド・シチュエーション・スリラー。
「デップー」や「ピカチュウ」こと、ライアン・レイノルズが一人芝居を演じます。
物語の背景の中が棺桶の中ということで、ソリッド・シチュエーションの中でも群を抜いた密室っぷり。
何が起きてこうなったのか?
どういった結末が待っているのか?
最期まで見過ごすことのできない、なかなかに密度の濃い佳作だと思います。
ただし作品の特徴として、薄暗く狭い箱の中だけが描かれますので、閉所・暗所恐怖症の方は観ない方が良いでしょう。
さっくりあらすじ
イラクでトラックの運転手として働くアメリカ人のポールが目を覚ますと、狭い棺の中にいた。
何者かに襲撃され地中深くに埋められた彼は、状況が掴めずに混乱する。
手元にはライターと携帯電話があり、減っていく酸素に不安を覚えながらも助けを求め、電話をするのだが、、、
閉じ込められたポール
脱出しようと試行錯誤する
一球入魂
先に言っておくと、狭い場所でのカメラアングルとデップーの演技力と、緊張と弛緩のバランスと、非常に興味深く面白い作りの映画ではあります。
物語の設定と背景があるとはいえ、90分を一人で芝居して映画に仕立てるというのは並大抵の難易度ではないですからね。
ここまで完成できたことだけで賞賛に値するものです。
が、集中して観るにつれて徐々に綻びも見え始め、オチまで辿り着くと微妙に首を傾げるような展開も相まって、2回観たいとは思わない作品だとも思います。
少しずつ分かってくる状況や脱出への希望など、小出しにされる情報を観る側もかき集めるわけですが、正直疲れます。
「アレかもしれない、コレかもしれない、、やっぱ違う」の繰り返しなので、観終わる頃には普通に疲れます。
端的に言えば、2度観るのはつらいです。
物語としては、自力での脱出が難しいポールが助けの電話をしてみたり、逆に電話で脅されたりを繰り返す流れ。
つまり同じ密室系でも犯人を割り出す系ではなく、どうやって脱出するのか系に属す作品だと言えます。
さらに言えば割と序盤で犯人は特定されますので、希望や絶望をもたらす”電話の相手”との話し合いが作品の軸と言って良いでしょう。
そもそもどこにいるのか?
外は(状況的に)どうなっているのか?
自分以外の人は無事なのか?
そういった「知りたい情報」は全く与えられず、電話を通じた真偽が分からない情報だけしか手に入らないんですな。
また救出を求めて連絡したアメリカ政府の組織も絶妙に胡散臭く、全幅の信頼を寄せるべき相手が信用に至らないというのもポイント。
死にかけている人間を相手にしているとは思えない冷静な態度や、システマチックに自分や状況のことを丁寧に聞こうとするサマが何とも不気味にも感じるわけです。
混乱に乗じた被害妄想と言えるのかもしれませんが、極限状況に於いての温度差が新たな疑心暗鬼を生む構成は実にお見事。
普段は全く気にしないであろう「顔の見えない相手」との会話が、状況が変わればこうも不気味に感じるのかと思うと興味深い話ですよ。
それに加えロクに動くことも出来ず、観ているだけで息苦しいシチュエーションもあり、リアルな閉塞感が良く伝わります。
ソリッド・シチュエーションの特性として、映像的な変化に乏しい弱点がありますが、そこらにも微妙な変化をつけアクセントを作ろうとはしています。
ぶっちゃけ無くても良いような演出だとも思いますが、作り手のアイデアは感じ取れます。
また敵の正体もハッキリせず、味方の活躍も乏しく、微妙にフラストレーションが溜まりますね。
物語のキモとなる全ての部分において意図的に曖昧にボカしている節もあり、サスペンスとしての奥行きは感じます。
逆に言えば、観ている側の推理が正しいのかどうかも微妙にハッキリせず、ちょっと消化不良な印象でもあります。
余韻を残した物語だと思えば、仲間内でワイワイ話し合うのも良いとは思いますが。
まぁ、筆者は友達いないのでね、脳内の友達と話しますけどね。。
まとめ
90分と短い尺でありながら、どっぷりと疲労感に浸れる濃ゆい内容が魅力です。
映像的な変化に乏しい作品なので好き嫌いは分かれそうですが、デップーの熱の入った一人芝居もあり、十分に観るに値する作品だと言えます。
何より、シチュエーション・スリラーとしては非常に良くできていますので、密室系映画の入門編としてはうってつけじゃないかな。
良ければ一度ご鑑賞くださいませ。