
(英題:Hardcore Henry)
2015年/ロシア・アメリカ
上映時間:96分
監督:イリヤ・ナイシュラー
キャスト:セルゲイ・ヴァルヤエフ/アンドレイ・デミエンティエフ/イリヤ・ナイシュラー/シャールト・コプリー/ヘイリー・ベネット/他
全編を通して、映像のほぼすべてが一人称視点(POV)で構成された変わり種SF・アクション。
監督を務めたイリヤ・ナイシュラーは全くの無名(というか、本業はミュージシャン)でありながらも、トロント国際映画祭での好評を皮切りに、世界中の映画祭で喝采を浴びました。
そんな斬新な作品に加え「第9地区」や「エリジウム」など、個人的に大好きな変態系憑依型俳優であるシャールト・コプリーがキャストに名を連ねるということで、これはもう絶対に観なくちゃいかんなと。
一本道で単純ながらも練られた脚本と、臨場感を体感できる革新的な演出と。
良質なFPSゲームを観ているかのような映像や演出の数々が実に新鮮で、個人的に非常に楽しめた作品です。
さっくりあらすじ
ヘンリーが手術室で目を覚ますと、妻・エステルと名乗る女性がヘンリーに義手や義足を装着していた。
一度死んだらしいヘンリーをサイボーグとして蘇らせたエステルは「愛してる」と伝え、声を取り戻すために音声技術者の所へ向かうも、侵入者の襲撃を受ける。
侵入者を統率する謎の男・エイカンは超能力で手も触れずに音声技術者を殺し、ヘンリーは何とか逃げ切ったもののエステルは連れ去られてしまう。
人混みに紛れて逃げるヘンリーの元に、ジミーと名乗るホームレスが現れ「俺は味方だ」と告げるのだが、、、
目を覚ますと手術台
自称・妻は連れ去られ
変なヤツが寄って来る
革新的な既視感
非常にユニークで斬新なアイデアでありながらも、FPSゲームをプレイしたことのある人ならば誰もが感じる既視感が面白い作品です。
良くも悪くも厨二病な設定をそのまま映画に落とし込み、大真面目に磨き上げた感性と情熱は素晴らしいものですな。
多少の紆余曲折はあるにしても”主観視点でのドンパチ”という軸は全くブレず、もうこの手の映画はコレ1本でお腹いっぱいと言うボリューム感です。
しかし同時に、FPSをプレイしない方にはまず響かないであろうニッチに尖り過ぎた作風は難点にもなり得ます。
主観視点でひたすらにドンパチ、ついでにカメラも揺れる揺れる。
人によっては普通に酔うかもしれませんし、実際の印象として集中して映像にくぎ付けなるのは正直キツかったっす。
個人的にはそれを補って余りある魅力がありましたが、むしろ単純なアクション性に飽きちゃう人も少なくないでしょう。
箸休め程度に演出されたエロやギャグなども良い塩梅ではありますが、もう少しだけエログロ寄りにしても良かった気もします。
全体的に、ジリジリと緊張感を高め一気に下降するジェットコースター的な演出が多いので、観終わった後はもうクタクタですよ。
主観視点を通しての刺激的な映像の連続に対し、自分の脳の映像処理能力がどんどん削られていくのが体感できます
家のTVで観てコレですからね、もし映画館で観てたら最後まで観れなかったかもしれません。
退屈という意味ではなくて、矢継ぎ早に繰り出されるFPSアクションに脳の処理が追い付かない感じかな。
特筆すべきはドラクエ系喋らない主人公と、キーパーソンを演じるシャールト・コプリーの2人。
というか、そもそも登場人物も少ないんですけどね。
主人公・ヘンリーを演じる、というかカメラマンかな?
この人はすごいですよね、どう映るのかを客観的に考えるのが役者の仕事だと思いますが、もう1から10まで自分の視点が映画になるんだもんね。
特にアクションシーンのクォリティを鑑みれば、FPSゲームという見本があるにしても、それになぞらえて自分が動くというのは難しかったんじゃないですかね。
文字通り映画を通しての軸になるだけに、その頑張りには頭が下がるおもいですな。
そして数少ない、というか映画の中心になるキーパーソンを一人で演じたシャールト・コプリー。
今回は様々なコスプレで楽しませてくれますが、憑依型俳優だけあってどのキャラクターにしても圧倒的な存在感を誇ります。
もはや”怪優”と称しても差し支えのないほどに、卓越した個性を発揮していますね。
あとは、一応のヒロインとなるヘイリー・ベネットも相変わらず可愛いです。
最近だと「イコライザー」や「マグニフィセント・セブン」などにも出演しておりますが、高身長にスレンダーなスタイルと、妖艶な目元が実に印象的。
唯一の不満点としては彼女の活躍が少なめなこと、できればもう少しセクシーさを振りまいてエログロな演出が欲しかった気がします。
まとめ
個人的には「マッドマックス」以来の興奮を覚えましたが、だからといって何かを感じ取るような要素は皆無です。
斬新でエクストリームな映像の数々も、革新的なガンアクションも、終わってみれば心に余韻を残すようなものはありません。
まるで一発芸というか、一発屋というか、とにかく一度きりを究極に楽しむ映画なんでしょう。
よって2度め、3度目の鑑賞で掘り起こすような深みも少ないと思いますので、とにかく1回目の鑑賞に全てを懸けましょう。
邪魔の入らない環境で、ドリンクとつまみを用意し、食い入るように観る。
そうするだけの価値はある作品だと思いますよ。
ただし好き嫌いは極端に分かれそうなので、ちょっとでも合わないと思ったら止めて問題ありません。
矛盾するようですが、無理してまで観るような映画でもありません。
よければ一度ご鑑賞くださいませ。