
(原題:Nebraska)
2013年/アメリカ
上映時間/115分
監督:アレクサンダー・ペイン
キャスト:ブルース・ダーン/ウィル・フォーテ/ジューン・スキッブ/ステイシー・キーチ/ボブ・オデンカーク/マリー・ルイーズ・ウィルソン/ミッシー・ドーティ/他
「ファミリーツリー」にて多大なる評価を得た、アレクサンダー・ペイン監督によるヒューマンドラマ。
このペイン監督ですが、サイレント映画に影響を受けたと自称する変わり種なお方。
通り極力無駄な演技や演出を抑え、リアルな描写のみを抽出し、社会風刺やブラックユーモアを練りこむことを得意としている風変わりな作品が特徴的です。
キャスティングが非常に素晴らしく、どの俳優も目立ち過ぎず、地味過ぎず。
完璧なバランスで各々の立ち位置を把握しており、このキャスト以外では無理だったんじゃないかと思わせるほどに完成した映画となっています。
ただ、作品自体は抑揚に欠け、眠たくなるんですけどね。
さっくりあらすじ
頑固なアル中老人のウディの元に、100万ドルが当選したとの知らせが届く。
この怪しい手紙を何の根拠も無く信じたウディは妻や息子達の制止も聞かず、賞金をもらいに行くために一人、徒歩で出かけ始める。
そんな父親を心配した次男のデイヴィッドは休暇を取り、ウディを車に乗せて賞金がもらえるらしいネブラスカ州を目指す。
道中でも寡黙な父はほとんど喋らず、ただ酒を飲むばかりで、自分の年を自覚せずに無茶な行動ばかり。
だんだんとデイヴィッドも父親に対し、苛立ちが募っていく。
そして旅の途中で立ち寄ったウディの故郷にて、デイヴィッドは知らなかった両親の生い立ちを知ることになるのだが、、、
意思の疎通ができない親子
近いようで遠い、親子の関係
ハズレのチケットだと分かっているけれども、不憫な父を想う息子の優しさから静かに物語は始まります。
全く理解の及ばない父親に振り回されてウンザリしつつも、過去の父を知る人物の思い出話を聞くことで、見えなかった父の背中を築いていく息子。
それでも何故にウディが、100万ドルに固執するのかまでは理解できません。
顔見知り、知り合い、友達、家族から嫁さんまで、人間関係は絡んだ糸のように複雑なもんです。
宝くじが当たると親戚が増える、みたいなことは昔からよく言われていますが、このあたりは世界共通のようですね(笑)
作中で良き隣人のような顔をして接してくる、ウディの故郷の友達や顔なじみ、そして親戚達。
当選金の真偽も確かめず、遠まわしに無茶な理屈をこねては金にすり寄っていく様子は、目にするのも不快な人間の汚い闇の部分が生々しく描かれます。
そんな隣人達に対し、だんだんと不愉快な気持ちに苛まれるデイヴィッド。
それでもウディは寡黙で、気難しそうに見えても根はお人好しで、頼まれると断れない損な性分だったと後に知ることになります。
そんな不器用な生き方しかできない夫の尻拭いを続けてきた母が、すり寄ってくる親戚に啖呵を切る姿はとても頼もしいもの。
普段は口汚く罵りながらも、寝てしまったウディを労い頬にキスをする姿は深い愛情を感じる名シーンです。
なんだかんだ言っても母は強し。
女性は偉大ですなぁ。
キャスティングにおいて、日本ではあまり馴染みの無い俳優が多いと思います。
主演のブルース・ダーンは50年以上の芸歴を誇り、元は西部劇を中心に活躍していたベテラン俳優。
ベルリン映画祭やカンヌ映画祭で男優賞を獲得するなど、派手さは無くとも奥深い演技力を持ち味としています。
個人的には、いかにもカンヌが好みそうな俳優だなと思いますね。
息子・デイヴィッドを演じるウィル・フォーテは、コメディアン寄りの喜劇俳優。
「80デイズ」や「エイリアン・バスターズ」など、お笑い要素が入る作品を中心としてきましたが、なかなかどーして、この映画では芯のある優しい息子を見事に演じています。
彼のウンザリした顔は何とも魅力的で、この映画の隠し味とも言えるでしょう。
母役のジューン・スキッブも素敵ですねー、品がある。
作中では口が悪く、お世辞にも正確が良いとは言えない強烈なBBAではあります。
しかし、それが自然に見えてしまう圧巻の演技力、そして夫に浴びせる罵詈雑言の中に隠れる心配や優しさが伝わってくるような、奥行きのある表現が素晴らしいです。
あとステイシー・キーチも外せません。
悪人面をフルに生かした、やらしくて腹黒い役を演じさせた時の存在感はすごいの一言。
相手に有無を言わせない迫力というか、遠まわしに言うことをきかせるような間接的な圧力が不気味で怖いっすよね。
まとめ
とにかく俳優人が実力派ばかりで、灰色がかった映像を個性豊かに彩ります。
ヨボヨボな父親、愚痴ばかりの母、建て前ばかり気にする兄、お人好しが遺伝した弟。
良い人、悪い人の枠を越えて、個性豊かなキャラクターを見事に演じています。
固定カメラの画を重ねていく独特の手法がモノクロの映像を引き立て、陰影の強い作風に加え、台詞に頼らず表情や仕草で訴えてくる本格派の演技はなかなかお目にかかれないものです。
子供に何かを残してあげたい不器用な父親と、父親に誇らしくカッコつけてほしいと願う息子、そのチグハグな愛情がほっこりと優しく心に染みわたる丁寧な演出。
人生という、無軌道で予測不可能な道を優しさで包んだような、そんな不思議な魅力に溢れる作品です。
ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。