(原題:SURROGATES)
2009年/アメリカ
上映時間:89分
監督:ジョナサン・モストウ
キャスト・ブルース・ウィリス/ラダ・ミッチェル/ロザムンド・パイク/ポリス・コジョー/ジェームズ・クロムウェル/他
遠隔操作で思いのままに自分の分身となるロボットを動かし、またロボットを通じて社会生活を送るようになった世界を舞台にしたSFサスペンス。
ジョナサン・モストウ監督は「ターミネーター3」でも監督を務めており、そのせいかターミネーター風なエッセンスもチラホラ。
毛がふっさふさのブルース・ウィリスは置いといて、恐らくは自分が望む姿をロボットを通じて生活を送れるようになるんですが、いつかは現実になりそうな描写がチラホラ。
だってPCがスマホサイズになったり、ワンクリックで買い物ができたり、自撮りを他人に見せびらかす未来が来るなんて10年前は思いもしなかったしね。
元ネタは同名のアメコミだそうで世界観や設定に綻びはあるものの、なかなか魅力的な物語ではあります。
さっくりあらすじ
脳波で遠隔するロボット”サロゲート”が開発された未来社会、機体に破損や損傷があってもオペレーター(操縦者)には危害が及ばない安全性が支持され、世界の98%の人口に普及していた。
その結果、世界的に犯罪は激減し、伝染病や人種差別すら解決され、開発元のVSIは超巨大企業へと成長した。
しかしある日、カップルが操縦するサロゲートが何者かに襲われ、サロゲートはもちろんオペレーターの脳まで破壊され死亡する事件が起きる。
サロゲートを通じてオペレーターを殺傷することができるという事実は世間のパニックを誘発するため、事件は極秘扱いとなり、FBI捜査官のトムとジェニファーが派遣されるのだが、、、
FBI捜査官トム・グリアー
これはサロゲート
こっちが本体
人類総引きこもり
要は現実の社会生活の一切をロボットに立て替え、本人は遠隔操作マシンに引きこもって日々の生活を送るという未来社会が背景となります。
いわゆる「アバター」とか「マトリックス」を実現した世界だと言えるでしょうか。
みんなして自分が望む「最高にイケてる自分」になれるわけですから、その魅力も分からんでもないですな。
実際は「最高にイケてる自分を演じてる引きこもり」なわけですからね、逆に色々と失うものも多そうな気がしますが。
しかし2%の人間はそんな生活を拒否し、生身のまま独立した区画で生きる人々もいるわけで。
犯罪や病気や差別から解放され、ある意味で統制されたクリーンな社会ではありますが、互いの素性が正確に把握できない複雑な社会。
極めて狭い世界ながらも嘘偽りなく生身の生活を送り、しかし荒んだ治安の悪い世界。
難しいですねぇ、、どっちが幸せなんでしょうかね?
というか自分だったらどっち側に行くのかしら?
うーん。。
物語としては89分という短い時間で完結しているため、良くまとまっていると感じる一方で少なからず荒い部分もチラホラ。
仕事も娯楽も含め生活のほとんどをサロゲートを介して行うようになり、言ってしまえば「血の通った」機械へと変貌した人類という、ある種の哲学を感じさせるような舞台背景は素直に面白いと思います。
ただね、殆どの人間が「最高の自分」をモデルにするように、年齢を重ねることで失っていく「若さ」に執着したり、それと同時にオペレーターである自分を否定するようになったりと、そういったアイデンティティの置き場に困るような描写が欲しかったかな。
もしくはサロゲート依存症の人達が、楽しくリア充なサロゲートライフを送っている人達が、引きこもって現実にどういった生活を送っているのかとかね。
もう少し面白く掘り下げられる余地を感じるのが非常にもったいないところです。
主演のブルース・ウィリスは相変わらず安定した演技力、サロゲートを否定する男性の悲哀が良く出ていますね。
サロゲート依存症の妻とのすれ違いに落ち込み、捜査のために生身で外に出ることにビクビクしたり、やはり彼の演技は一級品です。
サロゲートを通じてお肌ツルツル、髪の毛フサフサなのもご愛敬、違和感は感じますがコレはコレで似合っているようにも思います。
脇役ではありますが、老いていく自分を晒せない妻を演じたロザムンド・パイクも素晴らしい演技。
ロンドン生まれで超がつくほどの才色兼備な女性ですが、「ゴーンガール」を観た時の衝撃は忘れられません。
これからも期待できる本格派女優ですな。
まとめ
言うても未来の物語、当然「んなわけww」となるはずですが、仮想現実でエッチなビデオを観たり、スマホで彼女を育てたり、ネットを通じて知らん人と恋に落ちたりとするような現代。
既におじさんからすれば理解不能な出来事が現実にあるわけで。。エッチなビデオはいいか。
こんな奇天烈な世界観もそう遠くはないのかもしれません。
正直なところ「こんな世界はちょっと嫌だなぁ。。」と思う反面、性同一性障害や人種差別なんかは恐らく無くなるであろうと、そうであればサロゲートには凄い価値があるんだろうとも感じますね。
既視感のある内容であり、サスペンス風な味付けに対して特別ひねりのある展開ではなく、良くも悪くも先が読める作品です。
ただテクノロジーの発達に伴う世界観を背景に、映像で魅せるタイプの作品だと思うので、単調な脚本だからといってつまらないわけではありません。
先述したようにサロゲートにのめり込む人間の内面を描くことにもう少し時間を使えれば、より魅力的になったであろうと思います。
色々と惜しい部分が目立ちますが、短い尺で綺麗に映画をまとめたと思えば、贅沢な要望かな。
SFサスペンスとしては及第点ですね。
ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。