(原題:Baby Driver)
2017年/アメリカ
上映時間:113分
監督・脚本/エドガー・ライト
キャスト:アンセル・エルゴート/リリー・ジェームス/ケヴィン・スペイシー/ジェイミー・フォックス/ジョン・ハム/他
アメリカ、ジョージア州アトランタを舞台に、犯罪者と逃がし屋ドライバーを描いたクライム・アクション映画。
「アントマン」で脚本を担当したエドガー・ライトが監督を務め、隠れた名作と名高い「きっと。星のせいじゃない」で準主役を務めた売り出し中の若手俳優アンセル・エルゴートが主演を務めました。
アメリカではロッテン・トマトを皮切りに各映画評論家からの大絶賛を受け、予想以上の興行収入を上げている模様。
でも日本では同時期に公開した「ワンダーウーマン」や「スパイダーマン:ホームカミング」や「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」の大規模な宣伝に埋もれてしまった印象です。
個人的に鑑賞前の期待値は高かったつもりなんですけどね、それを遥かに上回る、久しぶりの”傑作”としてオススメしたい作品です。
さっくりあらすじ
幼少時の事故以来、常に耳鳴りに悩まされている青年・ベイビーは卓越した集中力とドライビング・テクニックを持つが、大物犯罪者のドクが所有する車を盗んでしまったがために、代償として強盗グループのドライバーを務める羽目になる。
度重なる銀行強盗の仕事を終え、ドクの損失の穴埋めも終わりが見えてきたある日、ベイビーは嘗て母が働いていたダイナーの新人ウェイトレス・デボラに一目惚れをする。
危険人物・バッツを中心とした最後の仕事も終え、ドクへの借金も完済し、犯罪の世界から足を洗いデボラとの距離も縮めていくベイビー。
しかしベイビーを気に入っているドクが再び姿を現し、新たに仕事の依頼を強要してくるのだが、、、
I-podでお気に入りの音楽を聴く
そして爆走するベイビー
暗黒街のボス・ドク
計算高く怖い男
危険人物・バッツ
マジでイカれとる
スリル・スピード・スタイリッシュ
エンジンの排気音、タイヤの軋む音、ワイパーの音、そういったアクション面の効果音をBGMに絡め、踊っているかのように滑らかなドライビング・テクニックやアクションの演出は極めて素晴らしいもので、これだけでも一見の価値ありだと断言します。
計算されつくした演出、”音楽”と”映像”が一体化した演出はミュージカルを彷彿とさせ、そこに二転、三転、四転くらいする秀逸な脚本も重なり、非常に重厚で完成度の高い作品となっています。
序盤からエンジン全開、スタイリッシュなカーアクションと音楽で観る者を圧倒し、視覚的にも聴覚的にもヒートアップする素晴らしい仕様。
この”感覚的”に訴えかけてくる臨場感や迫力はぜひとも観て欲しい、一番のおすすめポイントと言えるでしょう。
物語としては犯罪集団から抜け出そうとする凄腕ドライバーの青年と、それを許さず利用しようと企む悪人たちの怖さを描いたもの。
本作の良いところは鮮烈な映像表現や効果音だけに頼らず、割と練り込まれ、次々と展開される脚本自体が優れているところにあります。
最愛の母を亡くし、つらい記憶と耳鳴りに悩まされ、綱渡りのような危険な仕事に従わざるを得ない青年・ベイビーの葛藤。
そんな彼を飼いならして手駒にしようと企む大物マフィアのドク。
ベイビーの犯罪に気づきながらも、愛情と優しさで彼をまともな道へと導く後見人のジョセフ。
人を殺すことも厭わない危険な思考の持ち主であり、修羅場を潜り抜けてきた犯罪者のバッツ。
常識的な思考を持ちながらも、躊躇なく犯罪を犯すダーリンとバディのコンビ。
偶然にもベイビーに恋をしたウェイトレスのデボラ。
各々の思惑が交差し、意外な展開でベイビーを追いかけまわし、また意外な展開で助け舟を出そうとする複雑な脚本は素直に面白かったと思います。
そしてそれらを彩る、魅力的なキャラクターを演じる俳優陣が本当に素晴らしい。
主演のアンセル・エルゴートやヒロインを演じたリリー・ジェームスもさることながら、特にケヴィン・スペイシーとジェイミー・フォックスの大御所の存在感はさすがの一言。
知的で冷静、極めて計画的に強盗を指示し、全てを見透かしているかのような言動をする不気味な男・ドクを演じるケヴィン・スペイシーは本当に怖いっす。
結局は彼の手のひらで踊らされているというか、大物犯罪者としての影の深さというか、絶対に逃げ切れなさそうな不気味な迫力がありますね。
終盤での意外な行動もすごいカッコよく、恐らくは本作随一の魅力的なキャラクターかと。
そして考えの読めない危険人物・バッツを演じたジェイミー・フォックスも圧巻のクズっぷり(誉め言葉)
本当に柔軟で面白い俳優ですな、品性を感じさせるジェントルマンから真正クズな犯罪者まで、彼の演技に対する造詣の深さと器用さが見て取れます。
本作に於いてはマジキチなクズっぷりで盛り立て、ドクとは違うベクトルで犯罪者の怖さを披露してくれます。
ついでにバディを演じたジョン・ハムのセクシーダンディーな魅力、ダーリンを演じたエイザ・ゴンザレスのエキゾチックなエロスも印象的です。
個人的には最も感銘を受けたのがエンディング。
この手のクライム・アクションや逃走劇は結びが難しいものですが、ここでも納得いくというか、現実的というか、単なる娯楽映画に終わらない懐の深さを感じます。
どれだけ超人的なドライビング・テクニックを誇ろうが、殺人も辞さない凶悪犯罪者だろうが、司法の手からは逃れられないのが現実というもので。
全編を通して演出された細かい出来事が、エンディングの裁判の伏線になったのも面白い構成でした。
上手いこと逃げ切ったご都合主義なハッピーエンドを選ばなかったことに、その上でホッと胸を撫で下ろすような終わり方を描いたことに最大の賛辞を贈りたいと思います。
まとめ
非常にテンポ良く、スリリングでスタイリッシュ、間違いなく傑作です。
本当に「今年のオススメ」に選んでも良いくらいで、もっと評価されるべき、放映されるべき作品だと思います。
オススメです。
ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。