(原題:CHAPPiE)
2015年/アメリカ
上映時間:120分
監督:ニール・ブロムカンプ
キャスト:シャールト・コプリー/デーヴ・パテール/ワトキン・チューダー・ジョーンズ/ヨ=ランディ・ヴィッサー/ヒュー・ジャックマン/他
「第9地区」や「エリジウム」でお馴染み、ニール・ブロムカンプ監督によるSFアクション・ドラマ。
クセのある名俳優、シャールト・コプリーとの黄金コンビもこれで3度目になります。
SF映画というカテゴリに社会問題や哲学的思想、果ては善悪の概念などを盛り込むのがニール監督独自の味付けとなっておりますが、本作も例に漏れずそんな感じ。
初期の尖った感覚は若干落ち着いたような気もしますが、それに取って代わる完成度はより洗練されている印象です。
さっくりあらすじ
南アフリカ・ヨハネスブルグの犯罪発生率を抑えるため、政府は大手兵器メーカー「テトラバル社」から人工知能を取り入れた攻撃ロボットの導入を決定した。
テトラバル社内部ではロボット設計者のディオンが、エンジニアのヴィンセントからの激しい妬みに頭を悩ませている。
そんなディオンは苦労の末に感情を持つ人口知能の開発に成功するが、上司は良い顔をせず、許可が得られなかった。
どうしても諦めきれないディオンは、廃棄寸前のロボットとを家に持ち帰り、極秘裏に開発しようとするのだが、、、
警察と共に行動する攻撃ロボット
人間では敵わない
エンジニアのヴィンセント
自身のアイデアが採用されず、苛立ちが募る
ディオンは嫌がらせにめげず
新たなAI開発に着手するが、、
人間の物差し
生まれたての無垢な赤ちゃんロボットが、ヤバい疑似家族に育てられるとモラルの行き場はどうなるのか?
ある意味で性善説をなぞったような作品と言っても良いでしょう。
個人個人が正義や信念を持つ人間という生物に於いて、登場人物の誰かに共感できるか否かで面白さがガラリと変わります。
実際のところAIの学習能力に馬鹿なことを吹き込んだところで、まっさらな状態から馬鹿に育つことはないそうですが、そこは大目に見ましょう。
というか人格を機械に移植できるのなら、そもそもロボットいらねーじゃんとかいうツッコミも無しよ。
物語としては、とあるエンジニアが開発した”感情を持つAI(を搭載したロボット)がギャング集団に奪われ、そこで成長していくという流れ。
何とか自分の思うように育てたいエンジニアと、犯罪の役に立つように育てたいギャングの思惑が交錯する展開となります。
科学技術やハードウェアの向上に伴うSFアクションというよりかは、機械をテーマに据えたファンタジーと言った方がしっくりくるかもしれません。
人の様に生まれ、人の影響を受けて育っていくチャッピーの姿は実に愛らしいもの。
貧富の差が激しく、生きていく上で道徳心が役に立たない犯罪都市・ヨハネスブルグで善にも悪にも染まりやすいAIの姿にはニール監督の想いが垣間見えます。
人間ならではの多種多様な考え方、それに伴う思想の相違、また多面的な価値観が描かれるために人によって感想はバラつきが出ることでしょう。
その上で平均的に、誰でもエンタメ性を感じ取れるようロマン兵器を投入し、それなりのガンアクションを楽しめるような配慮に映画監督としてのバランス感覚がありますね。
とはいえ、それなりに残酷なシーンや痛々しいシーンも散在し、とても子供向けとは言えない内容ではありますが。
また登場人物がほぼ悪人、というのも特徴的。
ひょんなことからチャッピーを仲間にした犯罪グループは言わずもがな、AI開発のエンジニアであるディオンも善人かどうかは微妙なところですな。
禁止されていた「感情を持つAI」を独自に開発し、ロボットが持つ心の可能性に没頭する姿はマッド・サイエンティストのようにも見えます。
国や人々の役に立つものを作るというよりは、純粋に科学への欲求が勝っているように見えるわけで。
己の研究を最優先するディオン。
強力な仲間を得て、犯罪に走るギャング集団。
ライバルに蹴落とされ、嫉妬に狂うエンジニア・ヴィンセント。
もう皆が皆、我が強いと言うか、自己中心的と言うか。
無垢なチャッピーを中心に、強欲で罪深い人間の汚さが浮き彫りにされるようです。
ただし、AI兵器開発の中の政治的やり取りと、街中で犯罪を繰り返すギャングとを同じ目線で見て良いとまでは思いません。
家族を養おうとするギャングの姿はややユニークに優しく、過激な思想を持つ兵器エンジニアは極端に悪人に表現するのはちょっと受け入れ難いかな。
まとめ
やはり「第9地区」があまりにもセンセーショナルで内容深い作品だっただけに、それを超えるようなものは出てこないですなぁ。
これはこれでそれなりには面白いんですけどね、いまいち焦点がボヤケている感じ。
エンタメ性とメッセージ性と、どっちつかずで中途半端な印象ではあります。
一切の不自然さを感じさせない秀逸なCG映像と、とことん嫌な奴に徹したヒュー・ジャックマンの演技だけでも十分に観るに値しますが。
良ければ一度、ご鑑賞くださいませ。