(原題:Get Out)
2017年/アメリカ
上映時間:103分
監督:ジョーダン・ピール
キャスト:ダニエル・カルーヤ/アリソン・ウィリアムズ/キャサリン・キーナー/ブラッドリー・ウィットフォード/ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ/他
「人種差別」をテーマにしたホラー作品のようで、そこからさらに踏み込んだ奥深い作品です。
監督・脚本を務めたのは、アメリカのコメディ番組で出演・脚本・製作を兼任し人気を博したコメディアンのジョーダン・ピール。
本作は彼の映画監督デビュー作となるわけですが、500万ドルという低予算ながらも興行成績1億7500万ドルという驚異的な大ヒットを記録し、また各映画批評家からも大絶賛を受けた映画です。
ちなみにアカデミー賞でも4部門でノミネートされ、見事脚本賞を獲得しています。
「無知」や「傲慢」が招く「リベラル」や「レイシズム」という概念を軸に、時に面白く、時に恐ろしく。
映画というコンテンツを成立させた上で、各々が感じ取る社会風刺は一見の価値があります。
さっくりあらすじ
若き黒人の写真家・クリスは白人の恋人・ローズの両親の元へと挨拶に行くことになり、黒人である自身を歓迎してくれるのかを不安に思いながらもローズの実家へと向かう。
ローズの実家・アーミテージ家へと着くと、催眠療法を実践する精神科医の母・ミッシーと神経外科医の父・ディーンがクリスを歓迎する。
クリスは家政婦のジョージーナや、庭師のウォルターの対応に違和感を覚えるも、ひとまず胸を撫でおろした。
夜になり、寝つけないクリスが煙草を吸おうと外に出ると、窓に映る自分の姿を見つめ続けるジョージーナと、全力疾走を続けるウォルターの姿を目撃する。
不気味に思ったクリスは家の中へと戻るとミッシーに催眠術をかけられ意識を失い、翌朝になるとミッシーに「禁煙できるようにした」と告げられた。
翌日にはアーミテージ家でパーティーが開催され、集まった招待客は皆一様にクリスに親しく話しかけ、クリスは一抹の不快感を感じるのだが、、、
写真家・クリスと大学生の恋人・ローズ
精神科医の母・ミッシーに催眠術を施される
翌日に開催されたパーティーでは不穏な空気が、、
斜め上
アカデミー賞に輝いた「ムーンライト」や陛下が活躍する「ブラック・パンサー」など、近年では黒人を中心に据えた映画が数多く製作されるようになりました。
時代の流れが目に見えて分かりやすくなってきましたね。
とはいえ、そういった黒人主体の作品の中でも本作は特に印象的なものです。
アメリカの映画評論家の大絶賛を受け、アメリカ全土でも大ヒットを記録したのも頷ける内容ではあるかなと思います。
かなりミステリー寄りのホラー映画ではありますが、練りに練られたプロット、予想の斜め上を行く展開は非常に興味深い内容であり、いち映画としての完成度は高いのではないでしょうか。
そもそもホラーやミステリーといったジャンルは一発勝負のコンテンツですし、ネタバレは観ずに、真摯な態度で臨むべき作品だと言えるでしょう。
特筆すべきはジョーダン・ピール監督の感性でしょう。
「黒人」と「白人」という既成観念を利用したミスリードの導き方。
「人種差別の撤廃」という概念が生み出す違和感。
「マイノリティに対する援助や融和」
という思考を逆手に取るセンスは素晴らしいものがありますね。
そういった複雑な考え方を整理し、脚本に利用できる賢さ。
その上でミステリー・ホラーとして伏線を描く器用さ。
さらにちょこちょこと挟まるユニークな演出と、これほどの映画センスを発揮する人は久しぶりに見た気がします。
低予算での作品ながらもこの完成度、これからの飛躍が楽しみですなぁ。
まとめ
最近だと大ヒット映画「グレイテスト・ショーマン」など、近年ではマイノリティをテーマに掲げた作品が多数公開されてますね。
水面下で全米が真っ二つに割れたトランプ政権が誕生してからは、より顕著になっているような気もしますが、良くも悪くも「人種」や「思想」の多様性などに人々が目を向け始めているとも言えるのではないでしょうか?
「偏見」とは「歴史」から由来するものだと思いますし、今日から、明日からといきなり考え方を変えるのは無理があるでしょう。
それでも、ちょっとずつ互いの理解を深めようとする姿勢は正しいように思います。
そういった考え方や僕らの心に根差す「偏見の元」をトリッキーに演出した作品として、本作は極めて興味深いものです。
ホラーとしては1度だけですが、ミステリアスな伏線の数々は2度、3度と楽しめることでしょう。
よければ一度ご鑑賞くださいませ。