(原題:Green Book)
2018年/アメリカ
上映時間:130分
監督:ピーター・ファレリー
キャスト:ヴィゴ・モーテンセン/マハーシャラ・アリ/リンダ・カーデリーニ/ディメター・マリノフ/マイク・ハットン/他
実在するジャズピアニストのドナルド・ウォルブリッジ・シャーリーと、彼の運転手謙ボディガードを務めたトニー・ヴァレロンガを描いた伝記的コメディ・ドラマ。
実際に1962年に開催されたアメリカ南部を回るコンサート・ツアーの道中が描かれます。
「メリーに首ったけ」や「愛しのローズマリー」など、障害や偏見を逆手に取る手法で良作を作るピーター・ファレリーが監督を務め、脚本には当事者であるトニー・ヴァレロンガの息子ニック・ヴァレロンガが参加したそうな。
涙あり、笑いありの非常に良く出来た作品だと感じる一方で、黒人と白人を描く繊細さや配慮に欠けるといった批判も少なからずされているようで。
個人的には非常に良く出来た感動の映画だと断言しますが、越えられない人種の壁というか、互いの偏見に対する考え方を改めて感じる機会にもなった気がします。
歴史や政治的な背景はともかくとして、いち映画としては実に素晴らしい傑作だと思いますよ。
さっくりあらすじ
1962年のアメリカ、トニー”リップ”ヴァレロンガが用心棒を務めていたナイトクラブが改装の為に閉店し、トニーは新たに仕事を探す羽目になった。
そんな折に、アメリカ南部を8週間かけて回るツアーの運転手の仕事を紹介され、アフリカ系アメリカ人ピアニストのドン・シャーリーと出会う。
全く物おじしないトニーの態度や風貌を見込んだシャーリーはトニーを雇うことに決め、クリスマス・イヴまでには自宅に返すという約束の元、一同はツアーに出発するのだが、、、
トニーとシャーリー
一緒にツアーを回ることになる
几帳面な黒人と粗野な白人
些細な衝突を繰り返す
しかし互いに認め合うことで一転し
絆を育んでいく
江戸っ子とお坊ちゃん
先に物語の背景を説明すると、黒人が白人と同じ権利を求めた公民権運動が始まったのが1950年代後半、1961年にはジョン・F・ケネディが差別撤廃の方針を示し、1964年に公民権法が成立します。
で、劇中の物語は1962年、まさに公民権運動の真っ只中であり、公民権法が成立するまでの1964年まで正式に認められていたジム・クロウ法が根強く残っていた時代です。
このジム・クロウ法は黒人だけでなく、アジア系やネイティブ・アメリカン(インディアン)に加え、4世代前までの混血人種も黒人と判定し、公共施設の利用制限を設けていた法律なんですな。
端的に言えば純粋な白人以外は食事もトイレも移動手段も、白人と同じものは使えないということ。
このような差別も差別、超露骨な人種差別が映画の背景となります。
物語としては、イタリア系アメリカ人(白人)のトニーがアフリカ系アメリカ人(黒人)ジャズピアニストのシャーリーの運転手を務め、道中の諍いを通じて仲良くなっていくというもの。
家族を養っていくために嫌々仕事に励むトニーと、道中で予想される様々な差別や危険から守ってもらうために彼を雇ったシャーリーと、2人の価値観や境遇の差が面白おかしく描かれます。
教養があり、上品に育った黒人・シャーリー。
ヤンチャで粗暴で教養が無い白人・トニー。
肌の色どころか、育った環境や考え方や言葉使いなど、もう何もかもが違うわけですよ。
肌の黒い出木杉君とジャイアンが一緒にいる感じ(多分違う)
それだけに分かり合えない雇用主と従業員という関係になりますが、素晴らしいピアノの才能を見た上で、あからさまな差別を受け続けるシャーリーの姿を見てトニーも態度を改めていきます。
このトニーを演じるヴィゴ・モーテンセンの演技力は実に素晴らしく、僕らの感覚で言う”江戸っ子”そのものなんですよ。
パンパンに張ったお腹と同じように大らかで大雑把で、その割には面倒見が良く真面目、でも変なところでケチくさく。
頭は悪くとも義に熱く愛情深く、機転が利く賢さを持ちながらも基本的に短気で乱暴で、でも自分が認めた相手には決して背かない誠実さがあると。
切符が良いと言うんですかね、こんなオッサン素敵だなと思わせる魅力に溢れています。
対するドン・シャーリーを演じたマハーシャラ・アリも負けじと素晴らしい演技。
育ちが良く教養があり神経質、見たままに天才ピアニストという感じで、良くも悪くも繊細な黒人男性ですな。
最初こそバカそうで手クセの悪いトニーに嫌悪感を示しますが、自分が思っている以上に誠実に職務に励んでくれる姿に徐々に警戒心を解いていく心の機微は実に素晴らしいもの。
また、白人社会では差別を受け、貧しい黒人の世界にも居場所が無く、安定しない自分のアイデンティティに思い悩む姿にも考えさせられます。
そんな2人が少しずつ距離を縮め、互いに思いやれるようになっていく姿は感動を呼びますし、所々で笑わせてくれる彼らの掛け合いは素直に面白いもの。
そんな素直な気持ちのままに迎えられるハッピーエンドも実に心地よいものでした。
まとめ
価値観の異なる2人が仲良くなっていく作品は珍しいものではないですし、ありきたりな映画ではあれど、それらとは一線を画す深いドラマがあります。
その深いドラマ性を支えるヴィゴ・モーテンセンとマハーシャラ・アリの演技は必見と言っても良いほどに卓越したものですし、広いアメリカ南部を旅するロードムービー的な側面も魅力的だと言えるでしょう。
実話ベースとはいえ色々と脚色はあるのだと思いますが、昔旅をした2人のおじさんの思い出話だったとしても、思わず聞き入ってしまいそうな和やかさがあるように思います。
何だか素直になってしまうというか、幸福感に包まれる気持ちというか、上手く説明するのが難しいです。
とにかく良い映画ですし、久しぶりに文句無しでオススメしたい映画です。
ぜひ一度ご鑑賞くださいませ。